製造業でも経営や業務のデータドリブンシフトの重要性が叫ばれるようになって久しい。だが変革の推進は容易ではない。本稿では独自の「概念データモデル」をベースに、「データを中心に据えた改革」に必要な要素を検討していく。
企業経営者か部門長か、あるいは実務者か。いずれにせよ、自社の経営や業務をデータドリブンな在り方に変えたいと活動しつつ、進捗にもどかしさを感じている。本記事を読みに訪れた読者の皆さまの中には、そうした方も多いのではないだろうか。製造業でも経営や業務のデータドリブンシフトの重要性が叫ばれるようになって久しいが、そのための変革の推進は容易ではない。
これに対して本連載では、変革における「データ」の重要性を改めて深掘りして考えていきたい。筆者らはコンサルタントとして、多くの製造業の皆さまと協業する機会に恵まれた。それらを通じて実感しているのが、変革の肝になるのは業務改革やIT導入ではなく、データそのものだということだ。
当然だと感じる読者もいるかもしれないが、実際の改革/改善現場ではデータ検討が後回しになっていると感じることが多々ある。自社の状況を振り返ってみてほしい。「データを中心に据えた改革」という共通理解を持つものの、実際の検討ではデータについての検討が後回しになっていないだろうか。
本連載では、「製造業におけるデータドリブン経営の実現とは何か」「デジタイゼーションやデジタライゼーションではなくDXにデータがどう関わるか」「企業間や業界をつなぐデータエコシステムへの対応はどう考えれば良いのか」などのテーマを取り上げて、4回にわたり考察していく。
製造業の経営環境は目まぐるしく変化している。筆者らが顧客の皆さまと日々仕事をする中で、経営環境に影響を及ぼしている、あるいは今後ますます影響を及ぼすと思われる主な変化として、「M&Aと事業再編」「法規制の強化」「ビジネスモデルの地域最適化」「少子高齢化」が挙げられる。
企業の経営資源を有効活用するため、M&Aや事業再編に取り組む企業が増えた。M&Aの件数は年々増加傾向にあり、直近では日本製鉄によるUSスチールの買収が話題になったように、海外企業のM&Aも増加している。また、国内企業間でもこれまで競合企業と見られていた企業同士が合弁会社を設立するといった報道も目にするようになった。
温室効果ガス排出量を可視化するCFP(カーボンフットプリント)への取り組みや、リサイクル時の分解/修理を前提としたEUのエコデザイン指令、EU一般データ保護規則(GDPR)に代表される個人情報保護など、これまでは競争力の源泉と見なされなかった観点が、競争上の必達条件として捉えられるようになった。
これらの対応を効率的かつセキュアに行い、新しい価値を創出すべく、欧州のCatena-Xや日本のOuranos Ecosystemなど、業種を横断してデータ共有やシステム連携を行うデータスペース(データ基盤)の取り組みも進められている(データスペースに関しては、第4回で詳しく触れる)。
ウクライナ紛争やコロナ禍は物流コストの高騰や政治的分断につながり、それまでのグローバルワンの考え方から地産地消の考え方への流れを加速させた。このことは、地域最適のビジネスモデルの構築と、グローバルな経営意思決定という難しいかじ取りを企業経営に求めることにつながっている。
国内に目を向けると、少子高齢化による働き手の減少が問題となっている。特に製造業においては立地の制約から郊外に拠点を構えざるを得ず、少子高齢化以前から人材確保に苦労している。
働き手不足の進行に従って、これまで製造業を支えてきた高度かつ属人化された技術の継承が困難になっている。このため、各社はデジタルツールを活用した技術の可視化や自動化に取り組んでおり、脱職人やAI(人工知能)/自動化、技術の可視化は、望む望まないにかかわらず、企業が取り組まねばならない優先度の高い課題の1つとなっている。
ここまで述べてきた変化に対応するためには、迅速な意思決定やテクノロジーの活用が必要である。そしてそれには、データを中心とした改革が重要となる。
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