GDPをドル換算値で国際比較する場合、前述したような市場為替レート(MER:Market Exchange Rate)で換算する場合と、購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)で換算する場合の2通りがあります。
為替レート換算値は、毎年変化する対ドルの為替レートを使いますので、為替変動の影響を受けます。そのタイミングごとの時価のような側面があります。
一方で、購買力平価換算値は、「空間的な実質値」と呼ばれ、各国の物価をそろえた上で、数量的な経済規模の比較を試みる数値となります。例えば、日本とスイスを比べれば、スイスは物価の高い国というイメージがありますね。同じ5万円相当の金額を持っていても、スイスは日本よりも物価が高いので、日本ほどモノやサービスを買えません。
このような物価の違いを排除して、物価を米国と同じと見なした場合の指標が購買力平価換算値となります。IMFをはじめ、国際連合、世界銀行、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)などの国際機関では、既にこの購買力平価換算値による指標が主流となっています。
この購買力平価換算値で名目GDPを比較したのが図5です。
図5:名目GDPの購買力平価換算値による2031年までの国際比較[クリックで拡大] 出所:「IMF World Economic Outlook database April 2026」を基に筆者にて作成各国のGDPの購買力平価換算値を見ると、先に見た為替レート換算値と様子が異なります。中国は2010年代には既に米国を抜いており、2031年には58.1兆ドルへと拡大すると予測されています。金額(為替レート換算値)では米国を下回りますが、米国よりも物価が安い分だけ、数量(購買力平価換算値)では米国を上回る経済規模となっているわけです。
同様に、インドも2010年頃には日本を抜いており、2031年には日本の3倍以上の経済規模に達すると見られています。
日本は為替レート換算値ではドイツや英国に抜かれると予測されていますが、購買力平価換算値ではまだ抜かれていません。その代わりにロシアには抜かれていて、インドネシアとも差がかなり縮まることになりそうです。
日本は長期にわたってバブルおよびバブル崩壊の影響を引きずっており、長くデフレに苦しんできました。ただ、近年では物価が上がり、GDPも明確に拡大傾向に変化してきました。一方で、既に人口は減少傾向が続いていて、今後はその傾向が加速していくと見られます。
GDPは付加価値の総額ですので、人口と密接にかかわってきます。今後人口が減っていく日本では、GDPは増えにくくなっていくことが予想されます。このような見通しの中で、私たちの「生活の豊かさ」を見るには、総額であるGDPではなく、人口1人当たりのGDPを見た方が良いでしょう。
次回は、最新の1人当たりGDPについてご紹介する予定です。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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