小寺 動画を写真で配布するというシステムの話をお伺いします。プリントされたQRコードを読み込むと、スマホでクラウドから動画が見られる、その発想に至った経緯を教えていただけますか?
嶋氏 もともとコミュニケーションツールとして使っていただきたいと考えた時に、すぐにその場でプリントしてその場で渡せるという、この独自性を大事にしたい思いがありました。
インスタントカメラにとって、プリントすることはもともとハードルはないですが、例えばもらった側が動画を見るためにアプリ入れる仕様にすると、そこでコミュニケーションが止まってしまいます。この部分まで含めてQRコードにすることが、1番コミュニケーションを損なわないと考えました。
実はこれまでもQRコードはかなり使っていまして、LiPlayシリーズという、静止画に音を足すカメラもQRコードを使っています。
高橋氏 昔ならビデオテープとか、物質化して動画を渡す方法はなくはないのですが、今動画はデータで渡すものという感覚になっています。それをあらためて物質化して渡せるという体験自体が、すごく新しく感じていただけるということだと思っています。
また、スマホには静止画も動画も含めて大量のデータが入っていますが、1枚の重みというようなものが薄れているような気もします。撮影した写真や動画も「これなんだっけ」と思ってしまうように、希薄化しているという印象があります。
これに対してチェキプリントは、1枚1枚を大切に撮影したものなので、記憶として残るものになっている傾向があります。それを動画として出すことができると、その動画もすごく重みを持って、特別感を持っていただけると思いました。それも含めて、プリントできるというところにフォーカスしています。
小寺 メーカーが想定していなかった使い方や反応はありますか?
嶋氏 SNSなどでいろんな動画も拝見させていただいているのですが、いろんな方の個性が現れているというところが1番かなと思います。当時は無かったものを昔のフィルターで撮ったり、例えば、スカイツリーを「1930」で撮ったりするなど、私はこうした「時代のズレ」が好きです。人によってジダイヤル機能と被写体との組み合わせの部分はさまざまで、面白いなと感じますね。
高橋氏 メーカーというより私が想定していなかった使い方なんですが、自分の子どもに使わせてみて面白いなと思っているのが、古い物を撮るときにその時代に合わせようとするんですよ。これ「何年代の車?」とか「いつ作られたお寺?」とか聞かれたりして、モノの時代に合わせて撮ろうという考え方が今までなかったので、それ自体がちょっとユニークで面白いなと思いました。
父親の立場としては、歴史じゃないですが、そういうことを知ろうとするきっかけが作れているというのが、身近なユーザーから得た驚きですかね。
これまで多くの製品を取材してきたが、いいプロダクトには必ずどこかに「学び」がある。その学びが楽しく遊びに結び付いていたらさらに最高なわけだが「instax mini Evo Cinema」はそれを実現した、近年まれに見るプロダクトであろう。
筆者も試用させていただいたが、撮影される映像にはそれぞれの時代が持つムードがあり、時代と記憶とのリンクとともに、それが意味するものは何かといったことまで、深く考えさせられる。
またハードウェアとしても、ゼンマイネジ風のレバーや感触の良いダイヤル、しかもこの中にフィルムを入れるスペースを確保しプリント機能まで内蔵するという、まさに日本企業しか商品化できない製品だ。これが12万円ですと言われれば「お、おう」という感じだが、税込み5万5000円で実現したところも驚異的である。
世界に、「見たか!」といえるプロダクトだ。
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小寺信良(こでら のぶよし)
ライター/コラムニスト。1963年宮崎市出身。
18年間テレビ番組編集者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで幅広い執筆・評論活動を行う。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。2015年から4年間、文化庁文化審議会専門委員を務めたのち、2019年に家族で宮崎へ移住。近著に改訂新版「学校で知っておきたい著作権」がある。
Twitter(現X)アカウントは@Nob_Kodera
近著:改訂新版「学校で知っておきたい著作権」(汐文社)
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