finalはなぜASMR専用イヤホンを展開するのか、目指す“音を感じる世界”の拡張小寺信良が見た革新製品の舞台裏(39)(1/4 ページ)

ハイエンドオーディオを得意としながら、ASMR専用のイヤホンを開発/販売しているのが、日本のオーディオメーカーであるfinalだ。なぜfinalはASMRの世界に深く入り込んでいったのだろうか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。

» 2026年02月12日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」趣旨

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今までにない新しい製品のアイデアや発想はどこから生まれてきたのか。映像系エンジニア/アナリストの小寺信良氏が商品企画や設計・開発の担当者へのインタビューを通じ、革新製品の生まれた舞台裏に迫る。

⇒連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」のバックナンバー


 「ASMR」という言葉をご存じだろうか。ささやき声やキーボードのタイピング音、水を掬う音、咀嚼(そしゃく)音などを聞くと、背筋がゾクゾクしたり、リラックス効果が得られたりするという現象を指す。「Autonomous Sensory Meridian Response」の略称だが、直訳すれば「感覚によって幸福感をもたらす自律的反応」といったところだろうか。

 筆者がこの言葉を知ったのは、コロナ禍に入って間もなくの頃である。当時のストレスフルな時代はオーディオコンテンツが盛況で、「Clubhouse」などが流行したのをご記憶だろう。リラックスできる方法としてASMRもこの頃から大きく注目を集め、YouTubeなどに多くのコンテンツが投稿された。

 このASMR専用のイヤホンを開発/販売しているのが、日本のオーディオメーカーであるfinalである。ハイエンドオーディオを得意とするが、価格は比較的リーズナブルな製品が多いのも特徴だ。ワイヤードイヤホンの「E500」がASMRに最適として人気が出たのをきっかけに、2021年11月に「COTSUBU for ASMR」、2025年4月に「ZE500 for ASMR」、2025年10月に「VR1000 for ASMR」(受注生産)を相次いで発売した。

 そして2025年11月からGREEN FUNDINGで「ZE3000 for ASMR」のクラウドファンディングが開始されている。執筆時点で支援総額1億2400万円を突破し、支援人数7000人以上というビッグプロジェクトである。これまでの専用モデルと違い“ASMRを誘い出す”イヤホンという位置付けになっているのが特徴だ。

 今回はASMRの世界とその市場性、「ZE3000 for ASMR」の特徴などをお伺いする。お話を伺ったのは、final 国内営業部・広報部 マネージャーの森圭太郎氏、同社ASMR専任研究員 秋山俊宏氏である。

photo ASMRの第一人者である秋山俊宏氏。手前は秋山さんの頭部をかたどったオリジナルのダミーヘッド 出所:final

ASMR市場はどのように形成されていったのか

小寺 ASMRというのはどういう現象で、いつ頃から認識されるようになったんでしょうか?

秋山氏 音とか映像とかを知覚して、頭とか背中の辺りにゾクゾク感が生じることをASMRと言います。2010年にジェニファー・アレン(Jennifer Allen)さんという方が、この現象をASMRと名付けました。

 もちろん名付けられる前から、現象自体はあったんですね。でも2010年に名前が付けられたことで、広まっていったという経緯ですね。

 日本が特殊なのか分からないですけど、「音フェチ」という言葉が昔からありました。よくニコニコ動画で音フェチというタグのついた動画を視聴してたんですけど、それがいつの間にかASMRという言葉が浸透してきて、だんだんASMRに置き換わっていったのかなという印象です。

小寺 ASMR愛好者の間で最初に話題になったのがfinalの「E500」というモデルだったと思います。そもそもE500は、ASMRを聞くことを目的に作られたんでしょうか。

森氏 E500も今ではASMRの大定番のイヤホンとしてかなり浸透していますけど、開発の目的であったりとかコンセプトで言うと、そんなにかっこいいものではなくて、実は大手通信会社さんとの企画品だったんですよね。

 開発のコンセプトとしては、「バイノーラル録音(※)」ですね。ダミーヘッドなどで録音されたものを違和感なく再生する、理想的なイヤホンを作ろうというのがE500の開発コンセプトとしてありました。

(※)バイノーラル録音:ダミーヘッドや専用イヤホンマイクにより人が実際に音を聞く環境を再現して録音したもの

 実はその企画が途中で中止になって、製品だけが宙に浮いてしまいました。企画のバンドルとして作ったものだったので、白箱の殺風景なパッケージだったのですが、しょうがないので売ってみようかということで売ったのが、最初だったんですよ。

photo ASMR用としていまだ人気が高い「E500」[クリックで拡大] 出所:final

 バイノーラル専用イヤホンなんて世の中にないものですから、どういう使い道があるのかもあんまり分かっていませんでした。具体的なコンテンツと結びついてない中で売って大丈夫かなという不安はあったんですが、やっぱり最初はあんまり売れなかったんです。

 それがしばらくすると、ビックカメラさんやヨドバシカメラさんといった大手量販店さんから「E500を扱えないか」と聞かれるようになりました。箱も白箱なのでお断りしていたんですが、どうやら女性の方が多く店頭にいらっしゃってお求めになるということを聞きました。

 それで、「それ、どんな方なんですか」と聞きました。聞いたのは確かビックカメラの池袋店さんだったかと思うんですが、池袋界隈(かいわい)は、アニメイトなどに女性の方が結構多くいらっしゃっていて、特に「シチュエーションボイス」という「イケボの先輩から校舎裏で告白される」というようなコンテンツに人気があります。それに対して「これ(E500)だと、先輩の身長が分かる」というような評価をいただき、全く意図せずに人気が出たんですね。

 そこから火が着きまして、今で言うASMRにどんどん派生していったという流れです。

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