finalはなぜASMR専用イヤホンを展開するのか、目指す“音を感じる世界”の拡張小寺信良が見た革新製品の舞台裏(39)(3/4 ページ)

» 2026年02月12日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

「ZE3000 for ASMR」が誕生した背景

小寺 これまでE500とZE500 for ASMRがASMRの主力モデルだったわけですが、現在クラウドファンディングで展開されている「ZE3000 for ASMR」はまた違ったアプローチのモデルだと思います。このモデルを投入されるきっかけというのはどういうところにあるんでしょう。

森氏 これまでの「for ASMR」というモデルは、強い音を滑らかにして聞きやすくしていくという、どちらかというとリラックス方向で製品を作ってきました。今回は別の方向性の、より積極的にASMRの反応を引き起こすような「ティングル」というものにフォーカスしたのがZE3000 for ASMRということになります。

photo 現在クラウドファンディング中の「ZE3000 for ASMR」[クリックで拡大] 出所:final

 この考え方を私たちにもたらしてくれたのは秋山でした。専門でASMRを研究していた知見を生かして、新しい層にもASMRを知っていただくきっかけとしてモデルを仕上げ、今すごく売れているという状況になっています。

小寺 「ティングル」というのはASMRの中でも特に深い「脳がとろける感覚」として説明されていますね。ZE3000 for ASMRも「COTSUBU」のような、元になったモデルというのがあるんですか。

森氏 実は2021年の「ZE3000」というモデルが元になっています。これはfinal初のワイヤレスイヤホンでした。

小寺 もう生産終了になっているから、Webサイトには載っていないんですね。

森氏 そうなんです。それまで私たちは有線にこだわっていて、ワイヤレスだと音質が一歩及ばないというところを気にしていました。そこで、なかなかやりきれなかったところを内部構造をいじって、アコースティックに調整をして、ドライバーも専用の新しいものを起こしてようやく作ったのが、ZE3000というモデルだったんです。

 ノイズキャンセリングも付いていなくて、当時1万5000円ぐらいだったと思うんですが、販売店様とかにこの価格は厳しいよと言われてきました。ただ、その中でも、音がいいということで相当売れたモデルです。これが前身ですね。

小寺 単純に言うと、これまでのfor ASMRモデルとの違いはどこにあるんでしょう。

秋山氏 周波数特性で見ると、このグレーの線がZE3000の周波数特性で、赤い線がZE3000 for ASMRの周波数特性なんですね。

photo ZE3000と ZE3000 for ASMRの周波数特性[クリックで拡大] 出所:final

 ざっくり言うと2か所となりますが、1点目はまず低域が違っています。ここに温かみというか、そういうものが出るんですね。ささやき声なんかを聞いた時に、そこに本当に誰かがいるような温度感、気配のような鳴り方。そこがASMRコンテンツに重要です。

 2点目が中高域なんですが、グレーの方だとなにやら凹凸がありますが、赤い方だと滑らかになっていますよね。音楽を聴くにはおそらくこのグレーの線の特性がベストなんじゃないかと思います。というのは、音楽には楽器の響きとかコードの響きとか、そういうものを開きやすく演出して楽しく聴かせるという必要があって、それがこれで実現されているということですね。

 一方、この赤い方はどういう目的かというと、ASMRでコンテンツを聞く場合は、音楽を聞く時のきらびやかさとか明るさとか迫力とかは、多くの場合はそこまで重要ではないんです。それよりも実際に身の回りで、まさにここで鳴っているという再現性が重要なんですね。例えばダミーヘッドで集音した特性を、そのまま表現したいわけです。まさにASMRコンテンツの音を臨場感を持って聞かせるという、そういう違いです。

小寺 この特性を実現するのは、ソフトウェア的にやっているんでしょうか。それともドライバーを直接いじってるということでしょうか。

秋山氏 物理的な面とソフト面の両方使って、実現しました。もともと音がすごくきれいなイヤホンでしたので、ぜひこれを使わせてくださいとお願いしました。

森氏 今回ZE3000をベースモデルに選んだ理由というのが、いわゆるアナログ部の調整範囲が広いところでした。finalの第1号ワイヤレス製品として、徹底的にアコースティック設計をやったモデルですから、秋山が狙っているこの特性にアコースティックで追い込んだのち、ソフトウェアで微調整していくということが一番できるモデルだったということですね。

小寺 なるほど。この中〜高音域というのは、大体周波数的にどのぐらいなんでしょうか。

秋山氏 そうですね。5kHzを中心として、2〜9kHzあたりですね。

小寺 これはティングルを誘発させる部分というのが、その周波数の中に存在するということでしょうか。

秋山氏 そうですね。そこも実はまだ研究がされている途中で、おそらく低域と高域が耳に刺さり過ぎないことが、ティングルを誘発させるのではないかと言われています。

小寺 低音もかなり持ち上げてますが、重低音はドライバーを大きく動かしていかないといけないので、空気抵抗が問題になるかと思います。これもやはりベント機構が効いてくるということでしょうか。

森氏 ZE3000の内部圧力に関しては、実はZE500とはちょっと方法が異なっています。ZE500は音導管に沿って耳の穴に直接ベントを通していくような形でしたけど、ZE3000の場合はドライバーの前室と後室をある意味貫通させて、イヤホン内の圧力の調整を行っている構造になっています。ZE3000はちょっと大きいんですが、その代わりちょっと凝った機構を入れられるということで、そういった手法を取り入れています。

photo ZE3000で採用された圧力調整機構[クリックで拡大] 出所:final

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