この記事を読んだ経営者の方は、「そりゃそうだろう」と思いながらも、「でも今のビジネスを変えるのは難しい」と感じているのではないだろうか。止めたところで、現場の人がすぐに問題を一つ一つ解決できるとも思えない。その気持ちはよく分かる。
だから、まず試しにやってみてほしいのだ。
朝礼でいい。一つのモデルラインでいい。特定のお客さま向けの製品だけでもいい。「今日は異常があったら、止めてみよう」と呼びかけてほしい。いつもと違うことがあったら止める。そして一つ一つ解決してみる。その日の生産数は落ちるかもしれないが、ぜひやってみていただきたい。
先ほどの食品工場の事例も、いきなり本格運用したのではなく、「今日は1時間だけ新しい方法でやってみよう」というところからスタートしたのだ。小さく始めることが、大きな変化への第一歩になる。
そして忘れてはいけないことがある。止めた人を褒めることだ。社長の姿勢を見れば、皆が安心して止められる。やってみた後、パートさんに聞いてほしいのだ。どうだったか、と。
今まで機械に合わせていた人たちが、止めることで主導権を取り戻す。自分のペースで、自分で考えられるようになる。人が生き生きと働く工場と、静かに時間が来たら帰るだけの工場と、どちらを目指したいだろうか。
もちろん、全員が同じように変わるわけではない。ペースを作ってもらうことで安心して働ける人もいる。それはそれでいい。ただ、周りが変われば、その人たちも少しずつ変わっていくことがある。諦めずにチャレンジしてほしい。一回でうまくいかなくていい。大切なのは、チャレンジする姿勢だ。これは現場の話ではなく、経営の方針の話でもある。どちらを目指すか。それを決めるのは、社長であるあなたしかいない。
あなたの工場に今日、止まる音は聞こえましたか。
今日、あなたの工場は何回コンベヤーを止めましたか。何回、みんなで一つの問題を解決しようとしましたか。
数個のロスよりも稼働率。短期的な経営判断としては、そちらの方が正しいかもしれない。だけど、あなたの工場の主人公は人ですか、機械ですか。時間だけ働けばいい人が来ればよいだろうか。それとも、仕事が楽しくてアイデアを出す人が集まってほしいですか。
一円でも安いから買われるものと、こだわりを感じて買ってもらえるもの、選択の問題である。「あなたの会社だから買う」と言ってもらえる商品を、目指していこう。従業員からアイデアが出ないと悩んでいるなら、それこそ立ち止まって考えるときかもしれない。
私はトヨタ自動車のエンジニアだったが、食品のプロではない。だからこそ気付く音がある。異常があったら止める。その発想を持つか持たないか、それが重要なポイントだ。設備そのものの在りようについては、引き続きシリーズで書いていく。(続く)
田代勝良(たしろ かつよし)
工場改善サービス株式会社 代表取締役
トヨタ自動車にて約16年間、生産技術・現場改善に従事。独立後は「社長より先に作業着を汚すコンサルタント」として中小製造業を中心にトヨタ生産方式ベースの現場改善コンサルティングを提供。中部産業連盟・日本能率協会などでのセミナー登壇実績多数。
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