こうした前提の下で、設計現場ではどのような問題が起きているのか。楠氏は代表的な3つのトラブルを挙げた。
1つ目が「実務で使えない計算Excel問題」だ。設備設計では標準化が難しく、計算Excelを作成しても案件ごとに仕様が異なるため使い回しができない。さらに、さまざまな条件に対応しようと改修を重ねることで、計算式は複雑化しブラックボックス化する。その結果、検算が困難になり、エラーの原因も特定しにくくなる。
この問題の解決には、機械設計の知識に加え、ITエンジニアレベルのスキルが求められる。また、開発には時間がかかり、通常業務と並行して進める必要があるため、担当者の負担は大きい。さらに現場では、こうしたExcelが属人化したツールとして運用され、作成者以外が扱えないケースも少なくない。
2つ目が「他人/他社への丸投げ問題」だ。デジタル活用を進めるには、機器やアプリの選定/購入、各種設定やルール整備、周知/教育/定着といった段階を踏む必要があり、相応の労力がかかる。しかし、その負担の大きさや社内の反発により推進が進まず、結果として他人や他社への丸投げが発生するケースがある。本来は分担であるべき役割分離が、責任の所在が曖昧な「丸投げ」へと変質している点が問題である。
さらに、一次請けから二次請け、三次請けへと再委託が重なることで、多重下請け構造が形成される。その結果、コミュニケーション負荷や手間が増大し、プロジェクトが円滑に進まないケースも多い。また、外注先だけがデジタル化に取り組んでも、元請け側の設計レベルやデジタル活用レベルが伴わなければ、全体としての効果は限定的なものとなる。
こうした状況では、計算ミスや設計の抜け漏れ、納期遅延といったトラブルが発生しやすくなる。また、再発防止の対応負荷も増大し、現場全体の負荷が増す悪循環に陥る。その結果、問題の本質的な解決が行われないまま、負担だけが外部へ移転される構図となる。
加えて、部品メーカーへの設計丸投げも増えている。この場合は安全率を過度に見込む傾向があり、過剰設計になりやすい。その結果、本来はよりコンパクトかつ低コストで実現できるにもかかわらず、無駄の多い設備となってしまう。
最後、3つ目が「勘ジニア化問題」だ。楠氏が設計計算について行ったアンケートでは、約13%が「計算しない」と回答したという。これは、設計が勘や経験に依存している状態を示している。
このような場合、過剰設計になるケースが多い。さらに、若手が育たない、会社のノウハウとして蓄積されないといった問題も生じる。特にベテランが引退した後には、設計資料が残らず、顧客からの問い合わせに対応できないといった事態につながる可能性がある。
講演の最後に楠氏は、機械設計者のための設計効率化Webアプリ「Updraft」を開発したことを紹介した。同ツールでは、よく使う寸法情報を見やすく整理し、頻繁に用いる設計計算を使いやすくしているという。また、計算の流れの中で部品選定まで行える点も特徴だとする。
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