若手エンジニアにありがちな強度設計ミス【前編】設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(1)(1/2 ページ)

連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第1回は「若手エンジニアにありがちな強度設計ミス」をテーマに取り上げる。

» 2024年04月26日 09時00分 公開

 本連載は、前回シリーズ「いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い」をイントロダクションと位置付け、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説していきます。

今回のテーマ:若手エンジニアにありがちな強度設計ミス

 新年度が始まり、設計現場は「これから会社に貢献できるよう設計を頑張るぞ!」と意気込む若手エンジニアと、「今後の活躍が楽しみだ」と若手に大きな期待を寄せるベテランエンジニアとで活気づいていることかと思います。皆さんの現場はいかがでしょうか?

 この春から、あなたの現場にもやる気みなぎる若手エンジニア(Aくん)が配属され、ベテランの立場であなたが面倒を見ることになったとします。一通りの研修を終えたAくんに早速ある部品の設計を任せてみたところ、その成果物を確認したあなたは「どうも剛性が足りていないような……」と違和感を覚えました。

 確認のため、Aくんに話を聞いてみると「ちゃんと強度計算して、強度に問題ないことを確認しました!」との回答。若手で設計経験が浅いとはいえ、学校で材料力学などをきちんと履修してきたはずですから、Aくんも自信がある様子です。

 ところが、実際にAくんの設計を細かく確認してみたところ、やはり強度不足が判明。あなたは「まだまだだな」と感じつつ、Aくんにダメ出しをして、設計のやり直しを命じるのでした――。



 皆さんも同じような経験はないでしょうか。設計者のスキル不足は、設計変更や不具合対応のリスクを招きかねません。ただ、それは確かにその通りではあるのですが、「必ずしも若手エンジニアだけの問題ではない」ということを忘れてはなりません。

 ここで質問です。あなたの現場では、ベテランエンジニアの知見が資料として残され、社内に水平展開されていますか? 筆者の知る限り、ベテランエンジニアの知見がきちんと資料として整備されている現場はほとんどなく、実務の中でベテランエンジニアから何度も直接指摘を受けないと、彼らの知見を享受できない(知見を引き出すことができない)のが実情です。

 もちろん、以前はそれが当たり前だったのかもしれません。しかし、ベテランエンジニアの皆さんが高齢化に伴い退職し、優秀な人材が不足している今、設計現場として、会社として、技術をきちんと継承していくことを考えなければなりません。「実務で直接指摘されて覚えよ!」では、設計教育としてあまりにもお粗末ですし、現場のこれからを担っていく若手エンジニアに「機械設計の仕事って面白くないな……」と感じさせてしまっては非常にもったいないと思います。

 そこで今回は、筆者が若手だったころの経験をベースにしながら、“若手エンジニアにありがちな強度設計ミス”について【前編】【後編】に分けて紹介していきたいと思います。実務で使えるように、できるだけかみ砕いて解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

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1.1つの状況でしか計算していない

 設計現場においても、学校で学んだ材料力学の知識は非常に役立ちます。ただし、学校のテストの場合は、あらかじめ問題文の中に「こういう状況について計算してください」と定義されており、計算すべき状況はその“1つだけ”であることが一般的です。一方、機械設計の実務では設計者自身が「どのような状況について計算すべきか」を定義する必要があり、さらに考えるべき状況が“複数ある”ことも珍しくありません。

 例として、産業用ロボットの手首軸に取り付け可能な吸着ハンドについて考えます。この吸着ハンドは、置台に寝かせられているワークを吸着し、特定の場所へ立て掛けるように置くという動作を繰り返します。この装置を設計する上で、計算すべき状況にはどのようなものがあるでしょうか?

産業用ロボットの吸着ハンド 図1 産業用ロボットの吸着ハンド(3Dモデル:吸着パッド/SMC、アルミフレーム関連部品/ミスミグループ本社)[クリックで拡大]

 今回の装置であれば、

  • (1)寝かせられてるワークを吸着しロボットが動き始めたときの強度計算
  • (2)ロボットがワークを立て掛ける際の強度計算
  • (3)ロボットが置台の位置に戻ってくる動作の強度計算

の3つです。

 最初の(1)の状態では、吸着ハンドは水平の姿勢であり、その上でワークの重量による荷重とロボットアームで加速させる際の慣性力を受けるので、その強度計算が必要となります。

 (2)では、吸着ハンドは垂直の姿勢となり、その上でワークの重量による荷重を受けるのですが、荷重方向が(1)とは異なるので別途強度計算が必要です。

 そして、(3)の場合は、ワークの重量による荷重がないので、一見すると(1)(2)よりも負荷条件が緩く、計算する意味がないように思えます。しかし、「生産性を上げるために、ロボットが置台の位置に戻る際は最速で動作させたい」となった途端に吸着ハンドが受ける慣性力は大きくなるため、やはり別途強度計算が必要となります。

 このように、設計では計算すべき状況が複数存在することもよくあるため、問題の定義漏れがないように注意する必要があります。

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