設備設計の現場では今、デジタル活用が進まないという課題が顕在化している。その背景には、案件ごとに仕様が異なる「一品一様」の設計構造や、分業/外注を前提とした業務体制がある。その結果、使えない計算ツールの乱立や、他人/他社への丸投げ、勘や経験に頼る設計といった問題が発生している。本稿では「ITmedia Virtual EXPO 2026 冬」の講演内容を基に、こうした課題の実態と背景を整理する。
アイティメディアが運営する産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryは2026年2月10日〜3月12日の約1カ月間、製造業向けの国内最大級のオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2026 冬」を開催した。同イベントでは、製造業が抱える課題の解決や、今後のモノづくりの方向性を考える上での具体的なヒントを、豊富な成功事例や専門家による講演を通じて提示した。
本稿では、現在も生産設備の機械設計エンジニアとして活躍する、MSラボ 代表 兼 個人事業「ものづくりのススメ」代表の楠拓朗(ハンドルネーム:りびぃ)氏による基調講演「設備設計トラブルあるある デジタル活用ができない設計現場の現状」の内容をダイジェストで紹介する。
なお、同講演のベースにもなっている楠木氏の連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」が現在MONOistで絶賛連載中だ。
冒頭、楠氏は「ここでいう『デジタル活用』とは、設備設計で『Q(品質)』『C(コスト)』『D(納期)』を改善していくために、デジタル技術やツールを活用すること」と説明した。
同講演で取り上げるデジタル活用は、いわゆる大規模なDX(デジタルトランスフォーメーション)ではなく、日常業務の効率化を目的とした取り組みを指す。具体的には、これまで紙で書類を回したり、設計資料で対応したりしていた業務を、クラウドツールなどでデジタル化し、効率化するといったレベルのものだという。
設備設計は、生産設備を対象とした設計業務である。生産設備とは、工場で製品を製造するために使用される機械や装置の総称を指す。例えば、搬送系ではコンベヤー、加工系では切断機や熱処理機、検査系ではカメラや測定装置などが挙げられる。
そして、近年はAI(人工知能)やデジタルツイン、ロボット、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)などの先進技術を活用した、製造や保全の高度化が期待されている。つまり設備設計は、単なる機械設計にとどまらず、製造現場の高度化を支える役割を担っているといっても過言ではない。
こうした設備を設計するのが設備設計者である。顧客ごとに異なる工場レイアウトや要求仕様に対応し、個別最適化された生産ラインを設計する点も、他の機械設計とは異なるポイントだ。
設備設計のゴールは、(1)製品供給量の増加、(2)省力化/省人化、(3)品質の安定/向上の3点に集約される。
特に(3)品質の安定/向上については、従来人手で行っていた検査工程を機械化することで、ばらつきやヒューマンエラーを抑制し、品質を一定に保つ狙いがある。楠氏はこれを「製造現場を改革する仕事」と表現する。
一方で、この分野には構造的な制約も存在する。その代表が「機械は一品一様」である点だ。設備は顧客ごとの要望に応じた特注品であり、仕様の標準化が難しい。この「一品一様」という前提が、設計の標準化やデジタルツールの共通化を難しくしている。
さらに、大規模設備では部位ごとに担当を分ける分業体制が一般的であり、外注も多く活用される。また、試作品を用いた検証はほとんど行われず、不具合が発生した場合は実機を改造して対応するケースが多い。試作を経ずに実機で調整を行うため、設計段階でのミスや抜け漏れがそのまま現場負荷として顕在化しやすい。
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