内航船では、外航船以上にこの判断がシビアになる。例えば内航フェリーを例にすると、メタノール燃料では同一航続距離を確保するためにタンクサイズが約2倍以上となり、貨物スペースとのトレードオフが顕在化する。これは単なる機関配置の問題ではなく、運航形態やビジネスモデルまで含めた設計判断を迫るほどのインパクトを運航する船会社に及ぼす。
外航分野では、既にメタノールやアンモニアを視野に入れたReady船が実装段階に入り、船級協会の認証制度も整いつつある。しかし内航船では、同じ解をそのまま当てはめることはできない。だからこそ小坂氏は、「どの燃料を選ぶか」ではなく、燃料が変わること自体を前提に、変化を受け止められる設計思想をいかに構築するかを訴えている。燃料が変わる時代における船の設計とは、最適解を先取りすることではない。不確実性を前提に、「決めないこと」を設計する。それが、内航船GX時代における現実的な答えといえるだろう。
代替燃料を前提とした船舶設計が難しい理由は、単に燃料タンクや機関配置の問題にとどまらない。より本質的には、「その燃料が、実機条件下でどのように燃え、どのような排出特性を示すのか」を定量的に把握すること自体が、これまで困難だった点にある。
この課題に対し、海技研 環境・動力系主任研究員の川内智詞氏から、舶用実機スケールの燃焼過程を再現可能な可視化定容容器を用いた研究が今回の第25回講演会で紹介されている。
直径350mmという実機同等サイズの燃焼場に、高温/高圧条件とスワール流を与え、実際の2ストローク舶用エンジンに近い燃焼環境を実験室内で再現する点が特徴だ。高速度カメラと光学系を組み合わせることで、従来はブラックボックスだった燃焼挙動を可視化し、着火位置、火炎の成長、混合状態を詳細に捉えることが可能となっている。
特に水素燃焼では、極めて少量のパイロット燃料でも安定着火が成立する条件が確認されており、CO2排出源となるパイロット燃料の最小化に向けた具体的な知見が蓄積されつつある。これは「燃料が変わる時代の船」を構想する上で、机上の仮定ではなく、実機に裏付けられた設計判断を可能にする基盤データといえる。
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