OCEANWINGSのCEOを務めるEmmanuel SCHALIT氏が来日し、同社が開発した風力補助推進装置の技術的特徴と、日本市場における展開戦略について紹介した。
2025年4月10日、OCEANWINGSのCEOを務めるEmmanuel SCHALIT氏が来日し、同社が開発した風力補助推進装置の技術的特徴と、日本市場における展開戦略について紹介した。
SCHALIT氏は、海運業界にとって風力補助推進装置が財務的に理にかなった選択となる理由を、脱炭素化を取り巻く環境規制の厳格化と関連付けて説明する。EUでは既に環境汚染ガスの排出規制が始まり、IMO(国際海事機関)も規制強化に向けた議論を進めている。現状を放置すれば世界全体のCO2排出量は現在の年間約20億トンから2050年には40億トンに達すると見込まれているものの、約9万隻の商船が世界の物流の90%を担っている現状において海運を止めることは困難だと述べる。
「海運なしでグローバル経済が成り立たないということは明らかだが、同時に、脱炭素化が非常に難しい領域にもなっている」(SCHALIT氏)
その上で、SCHALIT氏は風力補助推進装置の導入が排出削減効果をもたらす可能性を持つと述べた。
OCEANWINGSは、飛行機の翼構造に着想を得た可変式のファイバー製ウイングセールを開発したフランスのスタートアップだ。OCEANWINGSのウイングセールは、2枚の縦帆を飛行機の主翼とフラップのように組み合わせることで、風に対する迎え角だけでなくドラフト量(セイルの深さ)までも調整できる高効率な帆装機構を備えている。
この設計を手掛けたのは、同社の共同創業者でもあり、世界的に著名なセーリングシップデザイナーのMarc Van Peteghem氏だ。彼はBMWオラクルレーシングのアメリカズカップ制覇にも貢献しており、その知見を基に風力補助推進装置を“現実的な”(ここ重要)本船向け帆装技術へと発展させた。
同社は、約3年間にわたって次世代エネルギー実証船「Energy Observer」で周知活動と技術実証を重ね、ゼロエミッション航行の実現性を訴えてきた。その同社初となる商用導入案件となったのが「Canopee(カノペ)」だ。この船の商用運航開始から2年が経過し、風力推進による燃費削減効果を実際の輸送業務の中で実証している。
Canopeeは、ESA(欧州宇宙機関)のアリアンロケット部品をフランス本土から仏領ギアナまで輸送するために建造された貨物船だ。全長121m、幅22m、排水量1万トンで、最大積載重量(DWT)は約3000トン、最大速力は17ノット。主機には2基のディーゼルエンジンを搭載して、その機関出力は約4000kWに達する。風力補助推進のためにOCEANWINGS製のウイングセールを4基装備し(1基当たりのセイル面積は365m2)、燃料使用量を最大で35%削減する。
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