日の丸舶用水素エンジンプロジェクトが陸上試験を開始、2028年度から実船実証へ船舶技術(1/3 ページ)

NEDOと川崎重工業、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジンコーポレーションは、ジャパンエンジンの本社工場に実証用の液化水素燃料供給設備を新たに設置し、舶用水素エンジンの陸上運転を開始したと発表した。

» 2025年10月21日 07時15分 公開
[朴尚洙MONOist]

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と川崎重工業(以下、川崎重工)、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジンコーポレーション(以下、ジャパンエンジン)は2025年10月20日、ジャパンエンジンの本社工場(兵庫県明石市)に実証用の液化水素燃料供給設備を新たに設置し、舶用水素エンジンの陸上運転を開始したと発表した。NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/次世代船舶の開発」の委託事業に基づく「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」の一環であり、舶用水素エンジンの陸上運転は世界初の試みだという。

ジャパンエンジンの本社工場における舶用水素エンジンの陸上運転開始を記念したテープカットの様子 ジャパンエンジンの本社工場における舶用水素エンジンの陸上運転開始を記念したテープカットの様子 出所:NEDO

 日本政府が2020年10月に発表した「2050年カーボンニュートラル」では、2050年までにGHG(温室効果ガス)の排出量を全体としてゼロにする目標を掲げている。経済産業省は、従来の政府方針を大幅に前倒しするこの目標の達成に向けてNEDOに総額2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業などを研究開発/実証から社会実装まで10年間継続して支援するグリーンイノベーション(GI)基金事業を立ち上げた。GI基金事業の重点14分野の一つである船舶産業の研究開発項目に挙げられている水素燃料船を実現するためのプロジェクトとして展開されているのが今回の「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」である。

グリーンイノベーション基金事業における「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」の位置付け グリーンイノベーション基金事業における「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」の位置付け[クリックで拡大] 出所:川崎重工、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジン

 「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」では、世界に先駆けた水素燃料エンジンの開発を目指して、純国産エンジンメーカーである川崎重工、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジンの3社でコンソーシアムを形成している。コンソーシアムの研究開発体制としては、3社がそれぞれ異なる航続距離の船舶向けの舶用水素エンジン、川崎重工が舶用水素エンジンに水素燃料を供給するのに用いるMHFS(Marine Hydrogen Fuel System(舶用水素燃料タンクおよび燃料供給システム)の開発を担当する。また、舶用水素エンジンの開発における共通課題の共同研究や共用設備の管理は3社が共同出資するHyEngが担う。この他、船級承認で日本海事協会、液化水素の供給で岩谷産業が協力している。

「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」のコンソーシアムの体制 「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」のコンソーシアムの体制[クリックで拡大] 出所:川崎重工、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジン

 プロジェクトの期間は2021年10月〜2031年3月の10年間で、最終目標は舶用水素エンジンとMHFSを開発して2030年度までに水素燃料船の実証運行を完了することだ。今回の舶用水素エンジンの陸上運転開始は重要な開発マイルストーンに位置付けられている。

「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」の開発マイルストーン 「舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」の開発マイルストーン[クリックで拡大] 出所:川崎重工、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジン

共用設備のMHFSは川崎重工が開発

 川崎重工は開発したMHFSは3社共用の設備であり、液化水素を貯蔵してガス化して各社の舶用水素エンジンに高圧または低圧で水素燃料を供給する。タンク容量は70m3×2基で、供給圧力は最大30MPa、供給量は最大781kg/h、供給温度は0〜50℃となっている。ジャパンエンジンの本社工場には、このMHFSの他、川崎重工とヤンマーパワーソリューションの舶用水素エンジンが設置されており、既に陸上運転による試験を開始している。なお、ジャパンエンジンの舶用水素エンジンは2026年春ごろから陸上運転を始める予定だ。

陸上実証用のMHFS 陸上実証用のMHFS[クリックで拡大] 出所:川崎重工、ヤンマーパワーソリューション、ジャパンエンジン
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