「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第10回は、インターネット通信を支える光ファイバーケーブルを海底に敷設する海底ケーブル敷設船「SUBARU」について解説する。
私たちが日常的に利用しているインターネット通信の大半は、無線や衛星通信回線ではなく海底に敷設された光ファイバーケーブルによって支えられている。国際通信トラフィックのほぼ全てが海底光ケーブルを経由しており、クラウドサービスや生成AI(人工知能)、大規模データセンターの相互接続といった現代のIT基盤は、この物理インフラを前提に成立している。
しかし、その存在はあまりに安定しているが故に意識されることが少ない。障害が発生して初めて、その重要性が可視化されるという点では、電力網や道路インフラと似た性格を持つ。一方で海底光ケーブルは、陸上インフラと異なり、人が容易にアクセスできない環境に敷設され、数十年にわたって運用されるという厳しい条件に置かれている。
この海底光ケーブルの敷設と保守を担うのが、「ケーブル敷設船」と呼ばれる専用作業船だ。ケーブル敷設船の役目は単にケーブルを船から海中に投下するだけでない。数千kmに及ぶケーブルを船内に収容し、海底地形や潮流、将来的な破損リスクを考慮しながら、計画に沿った正確なルートに敷設し、必要に応じて海底に“埋設”する。さらに、障害発生時には断線箇所を特定し、修理や再埋設を行う能力も求められる。
言い換えれば、ケーブル敷設船は「船」であると同時に、移動可能な巨大工事システムであり、ITインフラを物理層から支えるための専用プラットフォームといえる。
NTTワールドエンジニアリングマリン(以下NTT-WE)が所有して運航する「SUBARU」は、日本の通信インフラを支えることを目的として建造された海底光ケーブル敷設船だ。NTT-WEは海底光ケーブルの敷設/保守/修理を一貫して手掛けるNTTグループの専門会社で、日本近海のみならず、国際通信を支える海底ケーブル網の維持においても、重要な役割を担っている。
左舷後方から見たNTTワールドエンジニアリングマリンが運航する海底ケーブル敷設船「SUBARU」。全長124mで幅21m、総トン数9557トンで載貨重量は6280トン。船尾に設けたシーブに沿って敷設するケーブルを送り出す[クリックで拡大]SUBARUの運航形態で特徴的なのが、新規敷設と長期保守の双方を同一船で完結できる点だ。海底光ケーブルは、敷設して終わりのインフラではない。運用期間は20〜30年以上に及び、その間に自然環境や人為的要因による障害が発生する可能性が常に存在する。そのためには、敷設能力と同時に、障害発生時に迅速に対応できる保守修理能力が不可欠だ。そこで、ケーブルを連続的に敷設しながら海底に埋設するための専用埋設機に加え、精密な海底作業を行うROV(遠隔操作無人潜水機)を搭載している。これにより、広範囲の新設工事から、局所的な修理作業まで、状況に応じた作業を1隻で担うことができる。
SUBARUのブリッジは、航行効率ではなく、海底ケーブルの敷設から埋設、修理という作業を安定して成立させるための操船制御も重視している。
特徴的なのは、同じNavigation Bridge Deckの前部の操舵室と後部の作業制御室が機能的に分断されていない点だ。前部の操舵室では、船位や針路といった航海情報に加え、船尾のシーブごとにケーブルの送り出し距離や張力、送り出し速度といった敷設作業に直結する情報も常時把握できる。これは、船をどう動かすかという操船担当者の判断は、常にケーブルの状態とセットで行う必要があるからだ。
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