MONOist 素材/化学フォーラム年間ランキングで第2位に輝いたのは、「EVの常識を変えるか? 出光が挑む「柔らかい」全固体電池材料の強み」でした。
出光興産は現在、千葉事業所(千葉県市原市)の敷地内で、2027年6月の完成に向け硫化リチウムの大型製造装置「Li2S 大型装置」の建設を進めている他、同県内の2つの小型実証設備で、硫化リチウムを中間原料に用いた硫化物系固体電解質の量産技術開発やサンプルの生産を行っています。
本記事では、同社 先進マテリアルカンパニー リチウム電池材料部 次長 工学博士の草場敏彰氏に、硫化リチウムの製造設備や硫化物系固体電解質のプラント建設の背景、硫化リチウムと硫化物系固体電解質の特徴、開発/製造の課題、各課題の解決策、今後の展開について聞きました。
中国を中心に国外で電気自動車(EV)が普及しつつある中で、利用されている既存の液系リチウムイオン電池は、充電時間の長さ、走行距離、安全性で課題を抱えています。これらの課題を解決する次世代のソリューションとして、全固体電池への期待が高まっています。
一方、出光興産は、多角化経営の一環として、長年にわたり製油所で副産物として発生する硫黄の有効活用を研究してきた。1990年代には、石油化学製品の原料として利用するため、硫化リチウムの工業的生産技術を確立しました。
2000年代には、共同研究のパートナーである大阪府立大学(現:大阪公立大学)工学部 教授の辰巳砂昌弘氏が、硫化リチウムにリン化合物を添加することで高いイオン伝導度を持つ硫化物系固体電解質が作れることを発見しました。これをきっかけに、出光興産は、長年培ってきた硫化リチウムの製造技術を、全固体電池の主要材料である硫化物系固体電解質へと応用する研究を開始しました。
2000年代から硫化物系固体電解質の製造技術の研究開発を積み重ねてきた同社は、その技術の進歩に足元のEV市場の成長という社会的な状況が重なったことを考慮して、硫化リチウムの製造設備および硫化物系固体電解質のパイロットプラントの建設に踏み切りました。
同社では、製油所から得られる硫黄成分を原料として、硫化リチウムを製造し、硫化物系固体電解質を生産する体制を構築しています。これにより、品質管理された製品の安定供給を実現し、顧客である自動車メーカーからの高い信頼につなげているそうです。本記事では、出光興産の硫化物系固体電解質が持つ、「柔らかい」という性質の利点など、特長も記載されています。気になる方はチェックしてみてください。
MONOist 素材/化学フォーラム年間ランキングで第3位に輝いたのは、「レアアースを使わず透明性と耐久性を実現したセラミックス材料」でした。同材料は、第一稀元素化学工業が、セラミックスの材料として開発したカルシア(酸化カルシウム)安定化ジルコニア材料「HSY-0774」です。
HSY-0774は、同社独自の技術により、通常より約200℃低い温度での低温焼結が行える他、ジルコニアセラミックスが不向きとされていた100℃程度の温度でも、亀裂などが発生しにくい水熱劣化耐性を備えています。さらに、熱間等方圧加圧法を用いた焼結により、耐久性を維持しつつ、高い透明性を発現可能です。
一般的にセラミックス製品の材料となるジルコニア粉末の安定化剤には、イットリアなどのレアアースが使用されていますが、HSY-0774は、産出国が限定されるレアアースを使わず、自社のサプライチェーンでジルコニウム原料を調達できるため、安定した供給を期待できます。
本記事が公開された2025年11月中旬は、首相の高市氏が「台湾有事」に関する発言で、中国政府の反感を買ったこともあり、中国の日本へのレアアース輸出規制強化について国内で懸念され始めた時期です。ちなみに、国内外において、中国がレアアースの生産、精錬、供給の大部分を握っており、特に希少な重希土類(中/重希土類)ではほぼ独占状態です。
この状況は現在も続いており、日本政府は代替材料や国内でのレアアース回収技術の開発などで、レアアースの中国依存脱却について模索していますが、これらの技術で国内で必要な量のレアアースを確保できる見通しは立っていません。
このような背景もあり本記事は多くの読者に読まれたと思います。そのため、今後、素材/化学フォーラムではレアアースフリーを実現する材料についても取材していきたいと考えております。
ベスト3には入りませんでしたが、オススメの連載記事として、5位の「核融合炉の過酷な環境に耐えられる究極の材料とは?」や6位の「経済的な核融合発電はどうすれば実現できるか?」、8位の「そもそも鉄ってどんな金属?」を紹介します。
5位と6位の記事はいずれも、自然科学研究機構・核融合科学研究所 教授の高畑一也氏の連載「核融合発電 ここがキモ」の記事です。同連載では、核融合発電の応用知識について図を交えながら分かりやすく解説しています
「核融合炉の過酷な環境に耐えられる究極の材料とは?」では、核融合炉のブランケットに使用される構造材料を中心に、この高エネルギー中性子(高速中性子)に耐えられるかどうかに焦点を当て、これまでの技術動向と課題について紹介しています。
「経済的な核融合発電はどうすれば実現できるか?」では、「経済的な核融合発電の実現は可能か」、そして「そのためにどのような技術的課題が存在するのか」について、第1世代といわれる重水素−三重水素(D-T)反応炉に絞って説明しています。
「核融合発電 ここがキモ」の記事は、いずれも核融合発電の開発や社会実装に向けての課題を学ぶのに適した内容となっていますので、気になる方は閲覧してみてださい。
「そもそも鉄ってどんな金属?」は、鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニアのひろ氏が、今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する連載「鉄鋼材料の基礎知識」の第2回です。
同記事では、鉄の密度や剛性、強度、熱伝導性、熱膨張性、導電性、磁性などの特性について解説しており、鉄の特徴を知りたい読者に適した内容となっていますので、気になる方はご一読してみてください。
以上、2025年のMONOist 素材/化学フォーラム年間記事ランキングでした。素材/化学フォーラムの年間記事ランキングは今回が3回目でしたが、前回に引き続き電池材料、核融合発電などの分野の記事がランクインしました。これを踏まえて、引き続き、素材開発者や関係する皆さまのお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。2026年もぜひご期待ください! (以下、ランキング再掲)
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