旭化成が、長年培ってきた食塩電解技術をベースに、今後立ち上がりが見込まれるクリーン水素製造用の水電解装置市場でキープレイヤーを目指す。アルカリ水電解システムとイオン交換膜法食塩電解プロセスの重要部材を併産する新工場の建設計画を正式決定した。
旭化成は2025年10月23日、川崎製造所(神奈川県川崎市)において、クリーン水素の製造に用いるアルカリ水電解システムと塩素/苛性ソーダの生産に用いるイオン交換膜法食塩電解プロセスに対応した電解用枠と電解用膜を併産できる新工場の建設計画を正式に決定したと発表した。
クリーン水素とは、再生可能エネルギーを活用し、水の電気分解で製造される「グリーン水素」をはじめ、CO2排出量の削減に貢献する低炭素エネルギー由来の水素の総称だ。
今回の計画は、2024年12月18日に経済産業省の「GX(グリーントランスフォーメーション)サプライチェーン構築支援事業」に採択されており、クリーン水素製造用水電解装置の国内製造サプライチェーンの先行構築を後押しする枠組みを活用している。
旭化成グループは「中期経営計画 2027 〜Trailblaze Together〜」において、主要事業を「重点成長」「戦略的育成」「収益基盤維持/拡大」「収益改善/事業モデル転換」という位置付けにそれぞれ分類し、今後の資源配分方針を明確にしている。水電解/食塩電解事業が含まれる「エナジー&インフラ」事業は、「戦略的育成」事業と位置付けられており、将来の成長ドライバーとして積極的に投資を行っていく方針だ。
旭化成は、1975年からイオン交換膜法食塩電解事業を手掛けており、膜、電解槽、電極、運転技術、モニタリングシステムに至るまで、食塩電解に関する幅広い技術を有しており、これらの全てをワンストップで供給できるメーカーだ。イオン交換膜法食塩電解事業は収益を支える重要な事業と位置付けられており、今後も国内外の需要増大を背景に継続的な成長が見込まれる。
食塩電解で培った技術を基盤に、今後立ち上がりが見込まれるクリーン水素製造用の水電解装置市場でキープレイヤーとなることを目指している。その目標に向け、アルカリ水電解システムの大型化/量産化を見据えた技術検証と事業性評価を2010年から継続的に進めており、2025年度からは本格的に事業化フェーズへと移行している。
このような背景から、新工場はクリーン水素製造用とともにイオン交換膜法食塩電解プロセス用の電解用枠/電解用膜を併産できる拠点として建設される。新工場は、電解用枠および電解用膜のそれぞれで年間2GW超の生産能力を備え、2028年度の完成および稼働を予定している。
これにより、既存の食塩電解プロセス向け設備と合わせて、年間3GW超の生産能力を構築する。投資額は、投資額は約310億円で、そのうち最大3分の1は「GXサプライチェーン構築支援事業」補助金となる。なお、同計画は設計内容の精査を継続しているため、上記投資額は変動の可能性がある。
新工場を設立する川崎製造所は、2025年5月にメタクリル酸メチル(MMA)モノマーなどの事業撤退を発表するなど、経営資源の再配分による構造転換を行っている。今後は、既存事業の高付加価値化を推進するとともに、水電解/食塩電解事業の重要拠点として経営資源を集中し、食塩電解と水電解を両輪とすることで、柔軟かつ強靭な供給体制の構築と資本効率の向上を図る考えだ。
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