「使用済みタイヤを資源として再び原材料に戻す、初の挑戦」――。ブリヂストンが、その実現に向け、関工場の敷地内でパイロット実証プラントを着工したと発表した。将来のタイヤ需要拡大を見据え、同社が目指すのは、資源循環性の向上とCO2排出量の削減を実現する革新的なリサイクル技術だ。
ブリヂストンは2025年10月21日、関工場(岐阜県関市)の敷地内で、使用済みタイヤの精密熱分解パイロット実証プラントの起工式を開催したと発表した。
熱分解とは、化合物を無酸素で加熱することで構成物質に分解する方法だ。タイヤの精密熱分解は、温度や時間などの詳細な条件を制御し、使用済みタイヤから高品質なオイル(分解油)やカーボンブラックを高収率に生成することで、資源循環性の向上やCO2排出量の削減につながる。
今回の起工式で、ブリヂストン 代表執行役 副社長 BRIDGESTONE EAST CEOの田村亘之氏は「実証プラントは、使用済みタイヤを『資源』として再び原材料に『戻す』タイヤ水平リサイクルの実現に向けた、当社にとって初の挑戦であり、持続可能な社会の実現において、非常に重要な役割を担う。今回の着工により、関工場はブリヂストンのサステナビリティの取り組みにおいて、より一層重要な拠点となる」とコメントした。
国内外では自動車/交通需要の増加に伴い、将来もタイヤ需要の拡大が見込まれている。限られた資源の中で需要拡大に対応する必要があり、リサイクルの必要性はより高まっている。現在、使用済みタイヤのリサイクルにおいて、その多くはサーマルリカバリー(熱回収)により燃料として有効利用されている
一方、ブリヂストンは、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、より高い技術力が求められるケミカルリサイクルへの挑戦を2022年に開始した。2023年には、東京都小平市の研究開発施設「Bridgestone Innovation Park(以下、BIP)」に熱分解実証機を導入し、精密熱分解試験をスタートした。
そこで、使用済みタイヤから分解油や再生カーボンブラックを回収するための技術開発を進めている。これらの基盤技術を基に、今後は関工場の敷地内に設置したパイロット実証プラントで分解油や再生カーボンブラックなどの量産を見据えた技術の確立を目指す。安定した連続運転に必要なプロセス設計や品質管理などの知見の獲得、プラント操業のノウハウ構築、ケミカルリサイクルの実現を支える人財の育成にも取り組んでいく。
なお、今回のパイロット実証プラント建設は、ENEOSと進めている共同プロジェクトの一環であり、2022年2月にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」に採択された実証事業「使用済みタイヤからの化学品製造技術の開発」の研究開発テーマの1つだ。
同事業では、ENEOSが使用済みタイヤから回収した分解油をリサイクルオイル化し、合成ゴムの素原料であるブタジエンなどの化学品を製造することで、再生カーボンブラックとともにタイヤ原材料として再利用される資源の循環を目指している。精密熱分解により得られる再生カーボンブラックは、2024年12月にNEDOに採択された東海カーボンによる実証事業「使用済みタイヤを含む高分子製品からのカーボン再利用技術の開発」において、新品並みのゴム補強性を持つカーボンブラックの生成を目指した技術開発にも活用される。
今回の実証プラントでは、使用済みタイヤを精密熱分解することで分解油や再生カーボンブラックを回収し、タイヤ原材料として再利用するケミカルリサイクル技術の確立に向けて、技術実証を進める。同プラントの完成は2027年を予定している。
なお、ブリヂストン関工場では現在、工場運営に当たり、環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」を通じて、3R活動(Reduce、Reuse、Recycle)の徹底による資源循環推進、水使用量およびCO2排出量削減活動も実行している。
また、岐阜県、関市、富乃保財産区、中濃森林組合と2013年から締結している「生きた森林づくり協定」に基づき、「エコピアの森 関」において、森林整備活動も地域の関係者とともに推進している。
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