レゾナックが、独自の技術を駆使することで、開発期間を大幅に短縮しながら、従来品と比べ1.4倍の曲げ強度を持つ磁性封止材を開発した。
レゾナックは2025年10月16日、材料が曲げられる際に亀裂が発生したり破壊したりするまでの力を表す値である曲げ強度が同社の従来品と比較して1.4倍に向上した磁性封止材を開発したと発表した。
同製品は、スマートフォンなどの機器に搭載されるインダクター用の材料で、衝撃や湿度などによるインダクターの機能低下を抑制し、機器の信頼性向上に貢献する。2026年の量産開始を予定している。インダクターは、導線がコイル状に巻かれた受動素子(電子部品)だ。巻線型、薄膜型、積層型があり、高周波/低周波信号の選択、信号のノイズ除去を行う高周波回路用インダクターと、電圧の制御を行う電源回路用インダクター(パワーインダクター)に分類される。
新製品の開発に当たり、レゾナックは、独自技術である最先端の量子化学計算に基づく反応解析を活用し、磁性封止材中の樹脂と磁性粉の接合メカニズムを解析することで、従来の3分の1の期間で開発を完了し、市場投入までのスピードを高めることに成功した。
近年、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)、ADAS(先進運転支援システム)などの技術が普及/拡大し、スマートフォンからxEV(電動車)まで、さまざまな製品において、信号のノイズ除去や電圧の制御など、より複雑な機能が求められるようになっている。これに伴い、インダクターの需要は拡大し、基材として用いられる磁性封止材の需要も増加している。インダクターに対する性能要求も高まっており、磁性封止材の信頼性が製品全体の品質に直結するようになっている。
電源回路に用いられるインダクターには、主に、導線がコイル状に巻かれた巻き線インダクターが使われる。巻き線インダクターは、巻き線を樹脂と磁性粉から構成される磁性封止材で成形するが、樹脂と磁性粉の界面において強度が保てず、実装後、外力が加わった際に磁性封止材が破壊して、不具合を招くという信頼性の課題が指摘されている。そのため、磁性封止材に対しては、樹脂と磁性粉の接合強度の向上が強く求められている。
レゾナックは、こういった課題を解決するため、カップリング剤(添加剤)に着目した。しかし、カップリング剤の種類は非常に多く、全てを実験により評価すると、時間もコストもかかる。そこで同社は、量子化学計算に基づく高度な反応解析により、磁性粉のコーティングと樹脂の接合に対するカップリング剤の影響を解明し、この課題解決に最適なカップリング剤を探索し、選定した。
その結果、樹脂と磁性粉の界面での接合力が向上し、従来のカップリング剤を添加した場合に比べて、曲げ強度が1.4倍に向上した磁性封止材を開発できた。
同製品の開発で活用した技術は、磁性粉のように金属を含む材料との接合強度の向上が期待できるため、金属の種類にかかわらず、金属と樹脂が接合する複合体への展開が期待できる。
なお、同社の計算情報科学研究センターでは、物理法則に基づいたシミュレーション解析を行う「計算科学」と、データに基づいてAIなどを用いた解析を実施する「情報科学」を駆使して、研究開発や事業開発を加速することを目指している。
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