レゾナックが共創型人材の育成法を解説イノベーションのレシピ(1/2 ページ)

レゾナックと揚羽は、「『共創型人材創出企業』を目指してCHRO組織としての取り組みとこれから」と題したセミナーで、レゾナックの人事の取り組みや揚羽のインターナルブランディングを紹介した。

» 2023年06月21日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 レゾナックと揚羽は2023年5月17日、オンラインで「『共創型人材創出企業』を目指してCHRO(最高人事責任者)組織としての取り組みとこれから」と題したセミナーを開き、レゾナックの人事の取り組みや揚羽のインターナルブランディングについて紹介した。

統合に対する従業員の声

 レゾナックは、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)の事業を統合した機能性化学メーカーで、昭和電工が得意とする「作る(分子設計)」技術と旧日立化成が強みとする「混ぜる(機能設計)」技術を組み合わせて、シナジーの創出を進めている。

 統合初期(実質的な統合時期)の2021年に、両社が従業員に調査を行ったところ、「トップのビジョン/方針の伝達/浸透」「報酬/評価」「管理職の役割とスキル」「協働/協創」「デジタル」で課題が明らかになった。

 特に「トップのビジョン/方針の伝達/浸透」に非常に課題があることが分かった。レゾナック・ホールディングス 執行役員 CHROの今井のり氏は「当時は、Purpose&Valueも策定していなかったため、両社の統合が発表されたものの、統合の必要性について従業員に説明できていなかった。統合の発表後に、昭和電工 代表取締役の高※1橋秀仁氏(現在はレゾナック・ホールディングス 代表取締役社長)とともに、幾つかの拠点でタウンホールミーティングを行い従業員に統合の必要性を説明したが、『9000億円もかけて日立化成をなぜ買収しなければならなかったのか』と統合を疑問視する昭和電工の従業員が多かった」と話す。

※1 高:正確にははしごだか。

レゾナック・ホールディングス 執行役員 CHROの今井のり氏のプロフィール[クリックで拡大] 出所:揚羽

統合の必要性を理解した取り組みとは

 そこで、統合による変革のプロセスを見直した。変革の第1フェーズとして、Purpose「化学の力で社会を変える」とValue(大切な価値観)「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」を策定した。その後、各拠点でタウンホールミーティングとラウンドテーブルを行い、統合の必要性について従業員に理解させた。これにより、従業員のPurpose&Value認知度100%を実現した。「現在、従業員のPurpose&Value認知度に関して、理解が80%、共感が60%、実践が30%となった。今後は、変革の第2フェーズと第3フェーズで共感と実践の割合を高め、Purpose&Valueを定着させていく」(今井氏)。

 加えて、企業価値を「戦略×個の能力×組織文化」と考え、それぞれが掛け合わせられる体制の構築を推進している。戦略では「総合化学メーカーから機能性化学メーカー」へ生まれ変わるために、昭和電工が得意とする「作る(分子設計)」技術と旧日立化成が強みとする「混ぜる(機能設計)」技術を連携し、社会に求められる機能素材を開発しやすくした。「機能素材の化学では、さまざまな技術のプラットフォームや生産技術を組み合わせることが重要なため、当社では、社内にとどまらず社外のステークホルダーとの共創を通して、顧客が求める機能性素材を創出している。そのため、当社の価値の源泉は共創を創出する共創型の人材で、共創型人材を戦略の根幹に据えて人的資本経営を行っている」(今井氏)。

 共創型人材に関して、レゾナックでは、「社会課題の解決を目指し、会社や部門を超えて、共感・共鳴で自律的につながり、共創を通じて創造的に変革と課題解決をリードできる人材」と定義している。同社のPurpose&Valueを意識した行動もとれる人材だという。

個の能力を引き出す取り組み

 個の能力を引き出す取り組みとしては、個人に適した育成プログラムを用意した他、マネジャー(管理職)に意識改革を促すプラグラムも実施している。今井氏は「近年、日本の社会ではリーダーであるマネジャーに期待されることが変わっている。これまでのマネジャーは、垂直型リーダーシップが求められ、部下の管理を担当し、指示、命令系統に合わせてマイルストーンを決めて部下を管理することが多かった。これからのマネジャーは、水平型リーダーシップが求められ、複雑な問題に対して、ビジョンを定め、社内外横断で共創の場を設け対応し、変化に抵抗を感じる社員を鼓舞して変化を促し、管理するメンバーとは信頼関係でつながるようにする必要がある。同時にこれまでの垂直型のリーダーシップも必要となるため、場面に応じて使い分けなければならない」と話す。

 レゾナックでは、リーダーに必要な力として、『チームメンバーの強み/潜在能力を引き出す』『成長型マインドセット(互いに成長しあう)』『エンゲージメントを高める(心理的安全性、無意識バイアスの排除が基盤)』も求めている。

 会社と従業員の関係に関しても社会の変化に合わせて対応しているという。「これまでの会社は、新卒採用による社員の一括採用、年功序列などで、同質のメンバーを雇う囲い込み型だったが、この方法が限界を迎えている。これからの会社は、従業員も会社も選び選ばれる関係であるべきで、当社ではCEOも従業員の1人と考えている。だからこそ、各従業員の強みをどのように引き出すかを考え、その人に必要なプログラムを必要タイミングで提供する。さらに、意欲のある社員に活躍の機会を与えるために、社内公募や手上げ制の教育機会を設けている」(今井氏)。

 レゾナックの人事では、Purpose&Valueを考慮した判断軸と多様性を確保するための心理的安全性および無意識の偏見の排除を根幹に据え、目標管理制度(MBO)や1対1のフィードバックなどによる業績/行動評価を行っている。併せて、所属する人材の可視化や後継者計画、重要人材の個別育成計画による人材育成も実施しているだけでなく、共創型リーダーシップトレーニングや共創型コラボレーション力強化研修などのプログラムも従業員に行っている。

 共創型リーダーシップトレーニングは、2023年5月時点で1050人の従業員が受講しており、受講者の96%が「研修内容が有用だった」と回答している。主に学べることは「適切な目標管理(MBOの理解)」「OJT((オンザジョブトレーニング))を通じた人材育成」「フィードバック/コーチングの知識/スキル」となっている。

 共創型コラボレーション力強化研修は、経営職全員を対象としたプログラムで、指名に基づき受講者を順次決定している。主に、心理的安全性、無意識バイアス、傾聴力、発信力、ファシリテーション力について学習でき、研修前後の360度評価により学びと気付きを促進している。

人事部がファシリテーターを務め組織文化を醸成

 また、共創型化学会社に向けた人事戦略として、人事部がファシリテーターを務め組織文化の醸成を行っているという。組織文化の醸成では、Purpose&Valueを判断基準にするためのワークショップや解説書「半径14mの共創ブック」の作成を行った。加えて、レゾナック CEOの高橋氏とCHROの今井氏が70拠点を巡り、61回のタウンホールミーティングと110回のラウンドテーブルを実施した。

 これにより、1100人を超える社員との直接会話を実現している。「2023年からは、タウンホールミーティングとラウンドテーブルに加えて、従業員が悩み事を相談するもやもや会議も行っている。もやもや会議は拠点長も参加し従業員の悩み事を解決している。こういった取り組みにより全従業員が会社の取り組みに発言しやすい雰囲気を醸成している」(今井氏)。

 全レゾナックグループを対象とした事前エントリー性のグローバルアワードも行っている。グローバルアワードは、1〜2次選考を通過した各拠点や部門の活動を発表し、全社でその取り組みを評価する場となっている。今井氏は「グローバルアワードの面白いところは、成果が出る前にリーダーがその取り組みをエントリーし、チームを組織していく点だ。これにより、リーダーの挑戦の意欲やプロセスを評価できるようになっている」とコメントした。

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