グルーガンを使用するには、まず、材料となるスティックを本体にセットするところから始まります。適切な径のスティックを選び、投入部から真っすぐに挿入します。押し込まれたスティックは接着剤ガイドを通り、最後にホルダーに到達します。これで材料のセットは完了です(図4)。
電源を入れるとヒーターに通電し、先端部にあるノズル周辺の温度が上昇します。ノズル内部が十分に加熱された状態でレバーを握ると、押し出し機構が作動し、スティックを前方へと送り出します。
この動作は単純なように見えますが、スティックの送り出しが安定していないと、ノズルから吐出される接着剤の量にバラつきが生じ、塗布作業の品質に影響します。そのため、機械的な精度が重要になります。この点を踏まえて、もう少し詳しく動作を見ていきましょう。
スティックを投入部から入れただけでは、接着剤ガイドとホルダーによって位置は定まっているものの、まだ完全に固定されていません(図5)。スティックを固定するには、レバーを握る必要があります。
レバーを握ると、レバーの回転軸を中心にリンクバーが引っ張られます。このリンクバーの動作によって、接着剤押さえが回転するように動き、接着剤押さえに備わった山型形状がスティックを押さえ付け、押し出し機構に固定します(図6)。
スティックが接着剤押さえによって固定された状態で、レバーをさらに握り続けます。このとき、接着剤押さえはスティックを押さえ付けており、それ以上回転方向には動かず、接着剤ガイドが接着剤押さえとスティックを固定したまま、ヒーター方向へとスライドします(図7)。この一連の動作によって、スティックの先端がヒーター部に到達します。
レバーを離すと、スプリングの力によって元の位置に戻ります。この動作を繰り返すことで、スティックが安定して送り出され、連続的な接着剤の吐出が可能となります。グルーガンの使いやすさは、この押し出し動作の精度に大きく依存しているといえるでしょう。
押し出されたスティックの先端がヒーター部に到達すると、熱によって徐々に軟化していきます。やがて高い粘度を持つ液状になり、ノズル先端から接着剤が押し出されます。
この溶かす工程では、温度制御が特に重要です。過加熱になると材料が焦げて接着力が低下し、逆に温度が低すぎると十分に溶けず、流動性が悪くなります。適切な温度を維持して安定した粘度を保つことが、グルーガンの性能を左右するポイントになります。
このように、グルーガンは単なる“手軽な道具”に見えて、温度制御、流動特性、押し出し機構といった複数の技術要素が組み合わされたシステムといえます。その内部構造を観察してみると、限られたコストの中でも安全性や使いやすさを両立させるための設計上の工夫が、随所に施されていることが分かります。小さなツールの中に凝縮されたエンジニアリングの知恵は、製品開発の面白さをあらためて感じさせてくれます。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック 代表取締役(2代目)。『作りたい』を『作れる』にする設計屋としてデザインと設計を軸に、アイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド『factionery』では「第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞」を受賞している。
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