複雑な製造工程とコストが課題だった高強度銅合金の常識を覆す製品を三菱マテリアルが開発した。それは高強度銅合金「MSP 5-ESH」だ。この合金は、引張強さや導電率に優れる他、製造工程がシンプルで複雑な熱処理が必要ない。
三菱マテリアルは2025年9月25日、車載用電気部品などに適した新しい高強度銅合金「MSP 5-ESH(Extra Spring Hard)」を開発したと発表した。
同社が2021年に量産を開始した銅合金「MSP 5」シリーズは、高濃度マグネシウムを含有することで、強度、導電率、成型性をそれぞれ高いレベルで実現している。ベリリウムなどの希少元素を使用していないため、コスト面でも優位性があり、車載用小型端子材として高い評価を得てきた。
MSP 5-ESHは、同シリーズの高強度タイプで、従来ベリリウム銅やチタン銅が使用されていた領域への代替を可能にする性能を備えている。これらの従来材は、母相(溶媒原子)の中に別の原子(溶質原子)を溶け込ませること(固溶)で、材料を強化する析出強化型であるため、複雑な熱処理工程を必要とし、製造コストや品質安定性、環境負荷に課題があった。
今回の製品は、固溶後、溶媒原子の中で溶質原子を析出させることにより、材料を強化する固溶強化型の特性を生かし、これらの課題を解決する。
同製品は、引張強さが約900MPaで、導電率は電気伝導率の国際的な基準「IACS」で43%となっており、銅合金としては世界最高水準の性能を有している。これは、ベリリウム銅ベースの「C1720-1/4HM」やチタン銅ベースの「C1990-1/4HM」と同等の強度を維持しながら、導電率はベリリウム銅の約2倍、チタン銅の約4倍に相当する。電気特性と機械特性の両立は、車載部品の信頼性向上に貢献する他、部品の小型化、銅材料の使用量削減にも役立つ。
加えて、高強度材料は一般に加工時の割れが懸念されるが、MSP 5-ESHは端子の箱曲げ性に優れ、最小曲げ半径R=0の加工にも対応可能だ。プレス打ち抜き性にも優れ、寸法精度が高く、バリの発生が少ないため、量産性にも優れている。
さらに、析出強化型に比べて製造工程がシンプルで、複雑な熱処理を必要としない。これにより、製造時のCO2排出量を抑えることができ、環境負荷の低減に貢献する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.