講演では、3D UNIV+RSES(特にAIやバーチャルツイン)がもたらす航空機開発の変革について、設計、解析、製造、運用/保守といったプロセスごとに、具体的なイメージが示された。
まず設計段階では、航空機を単なる製品ではなく複雑なシステムとして捉え、システムアーキテクチャの設計をAIが支援する。電子、電気、ソフトウェアといった複数分野の設計が自動化され、将来的には上位レベルの要求仕様から、ワイヤハーネスやプリント基板(PCB)、さらにはそれらを制御するソフトウェアに至るまで自動生成できるようになることを目指している。また、設計の各段階は完全なトレーサビリティーを保ちながら進められ、関係者が一貫したデータに基づいて意思決定できるようになる。
航空機を構成する機械部品の設計では、ジェネレーティブデザインが活躍する。部品が配置される空間や境界条件、負荷条件、製造方法(鍛造、鋳造、フライス加工、3Dプリントなど)を入力するだけで、AIが複数の設計案を自動的に生成する。設計者は膨大な設計案の中から最適な形状を選択すればよく、大幅な設計作業の効率化が図られるようになる。
認証とテストに向けては、解析技術がその支援となる。従来の物理試験をシミュレーションに置き換え、再現性の高い高度なシミュレーションを通じて、安全性や規制適合性の証明につなげる。また、「AIはサロゲートモデルの開発を加速し、大規模GPUを活用することで、膨大なシミュレーションを高速に実行できるようになる。これにより、実機を使ったテストの回数を減らすことができ、コスト削減と開発期間短縮を実現可能にする」(ジグラー氏)という。
製造段階では、AIアシスタントのVirtual Companionsが現場作業者を支援する。組み立て手順や作業指示をリアルタイムで提供するだけでなく、品質管理を自動化する機能も担う。実際に、BoeingやDassault Aviationの工場では、この仕組みを活用して現場の品質検査が自動化されており、「最初から正しく作る」から「常に正しく作る」へのシフトが進んでいるとのことだ。
運用/保守の段階では、飛行データやメンテナンスデータがバーチャルツインに統合され、予知保全が実現される。実際の事例として、Dassault Aviationがフランス空軍と取り組んだラファール戦闘機のケースでは、稼働率が10%向上したという成果が示された。「AIはこの段階でも重要な役割を果たし、大規模データ解析を通じて予知保全モデルを進化させ、航空機の運用効率と安全性をさらに高めていく」(ジグラー氏)。
さらに、Apple Vision Proを活用したSense Computingについては、「ダッシュボードの表示、バーチャルコンパニオンによる支援、航空機の組み立てに関するガイダンスの表示などが、リアルな没入空間の中で体験できるようになる」と、ジグラー氏はディスプレイ越しの体験からの脱却をあらためて強調した。
このように、ダッソー・システムズは、3D UNIV+RSESの提供を通じて、AI(GenXp)が設計から製造、運用/保守までをつなぎ、Virtual Companionsが現場作業を支援し、Sense Computingがバーチャルツインを完全な没入空間へと変える世界の実現を目指している。
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