ダッソー・システムズは、大阪で初となる年次イベント「3DEXPERIENCE Conference Japan 2025」を開催した。本稿では初日に行われた基調講演の模様をお届けする。
ダッソー・システムズは2025年9月9〜10日の2日間、大阪で初となる年次イベント「3DEXPERIENCE Conference Japan 2025」を開催した。
会場には全国各地から製造業、建設、ライフサイエンス分野の関係者が集まり、同社の「3DEXPERIENCEプラットフォーム」とAI(人工知能)活用による産業変革のビジョンが共有された。開催地である大阪は、世界中から来場者が訪れる「大阪・関西万博」で盛り上がりを見せており、同社はフランスパビリオン(フランス館)のシルバースポンサーを務めるなど、地域との結び付きも強化している。
冒頭のあいさつで、同社 代表取締役社長のフィリップ・ゴドブ氏は、「ダッソー・システムズは“3DEXPERIENCEカンパニー”として、これまで科学、産業、社会における変革を推進してきた」と述べ、製造業における脱炭素化やライフサイエンス分野での製造/サプライチェーン改革など、幅広い分野における同社技術の貢献を強調した。特に、3DEXPERIENCEプラットフォームを通じて提供されるバーチャルツインやAIが、製品の設計から生産、サービスまでのライフサイクル全体を統合し、企業が直面する課題の解決を支援するとした。
さらにゴドブ氏は、同カンファレンスのテーマを「Embrace 3D UNIV+RSES:AIが加速するバーチャルツインの可能性――新たな価値創造の時代へ」と紹介し、2025年2月に発表した「3D UNIV+RSES」を通じて、モデリング、シミュレーション、データサイエンス、生成AIなどを組み合わせ、企業の意思決定を加速させる新たな取り組みを推進していくと述べた。
ゴドブ氏に続いて登壇した仏Dassault Systemes CEO(最高経営責任者)のパスカル・ダロズ氏は、同社が描くAI時代の産業ビジョンと、最新コンセプトである3D UNIV+RSESについて説明した。
ダロズ氏は「私たちは今、産業を変革する旅の途中にあり、この変革を皆さんとともにリードしていきたい」と述べ、創業から40年以上の歴史の中で「最も戦略的な一歩」を踏み出す時が来たと宣言した。その一歩とは、「産業界におけるAIのリーダー」を目指すというものである。
ダッソー・システムズは、製造業にとどまらず、ライフサイエンス/ヘルスケア、都市/インフラなど幅広い分野で40万社近い顧客を有する。日本ではトヨタ自動車やホンダ、三菱重工業などと長年にわたり協業し、国内に強固なパートナー基盤を築いてきた。
ダロズ氏によれば、世界の電気自動車(EV)の90%が同社ソリューションで設計/製造され、最近FDA(米国食品医薬品局)に承認された新薬のほぼ100%が同社のシミュレーション環境でテストされているという。また、次世代原子力エネルギープロジェクトの80%にも関与しており、産業横断的な知見を生み出している。
ダロズ氏は「こうした幅広い分野で培った知識こそが、産業全体に利益をもたらすAI技術を生み出す源泉となる」と語る。
ダッソー・システムズは過去40年の間に、3D設計、3Dデジタルモックアップ、PLM、3DEXPERIENCEプラットフォーム、バーチャルツインといったイノベーションを時代の流れとともに提供してきた。そして、こうした進化の先に、現在同社が取り組む「ジェネレーティブエコノミー(生成経済)」があるという。
ダロズ氏は「ジェネレーティブエコノミーは、AIによって加速されるソフトウェア定義型の経済であり、製品の価値はリアルとバーチャルの融合によって生まれる。例えば、自動車を購入する際、単に物理的な車両を所有するだけでなく、そのデジタル体験も同時に所有する世界が訪れる。つまり、『体験』そのものが価値の一部となる。未来の工場はリアルの製品とデジタルの体験を同時に生み出すソフトウェア定義型へと進化し、企業組織そのものもソフトウェアで定義される存在に変わっていく」と説明する。
こうした世界を実現するカギとなるのが、あらゆる産業分野で、製品やサービス、都市や組織といった多様な対象をバーチャル空間上でつなぐ包括的なアプローチとなる3D UNIV+RSESだ。
自動車産業では、車両を極限条件下でテストしたり、メンテナンス時期やリサイクル性を予測したりできるようになる。ヘルスケア分野では、脳や心臓を仮想的に再現することで、未来の治療法を試験したり、手術中の医師をリアルタイムで支援したりできる。都市計画では、交通の流れやエネルギー消費、環境負荷をシミュレーションし、政策決定をリアルタイムで支援することも可能となる。
さらに、3D UNIV+RSESは、製品や工場のバーチャルツインにとどまらず、サプライチェーンや組織、さらにはビジネスモデルまで「バーチャルツイン化」することで、デザイナー、エンジニア、製造担当者、サプライヤーがシームレスに連携できる環境を構築する。
「この中心には、AIが深く組み込まれており、単なる自動化ではなく、創造性と意思決定を強化する役割を果たす。AIは煩わしい繰り返し作業を自動化して人間が創造的な業務に集中できる時間を生み出す。さらに、設計提案を強化し、エンジニアリング判断をよりスマートにしてくれる。また、データを保護し、知的財産を守る仕組みも併せて提供する」(ダロズ氏)
ここでダロズ氏は、3D UNIV+RSESによりもたらされる3つの新たなサービスについて紹介した。
1つ目は「Generative Experiences(GenXp/生成体験)」である。組み立て要件、設計、テスト検証などをAI駆動で自動化するもので、設計プロセスの最適化、製造プロセスのシミュレーション、リアルタイムの品質管理などに活用できるという。2つ目は、作業者のスキルを補完し、ワークフローを加速するAIアシスタント機能の「Virtual Companions」。3つ目は、Appleとのパートナーシップにより実現した「Apple Vision Pro」との連携による「Immersive Experience(没入型体験)」である。Apple Vision Proを介して、実寸大のバーチャル空間(バーチャルツイン)に入り込み、現実世界と同じ感覚で設計や運用作業が行える。
最後にダロズ氏は、3D UNIV+RSESの提供価値として「Magic(魔法のような体験)」「Performance(圧倒的なパフォーマンス)」「New Possibilities(新たな可能性/限界を突破)」の3つを挙げ、「生産性は従来比で最大10倍に達し、これまで不可能だった課題を解決することが可能になる」と訴え、講演を締めくくった。
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