よく機械屋さんに「その異常が発生した際、機械にどういう挙動をさせればよいですか?」と質問すると、「機械を止める」とだけ言われることがよくあります。しかし、それだけではソフトの設計はできません。
というのも、「機械を止める」と一口に言っても、幾つかの種類があるからです。例えば、
などが考えられます。
さらに、同じ内容の異常だとしても、
といった条件が付随する場合もよくあります。
これらを踏まえて実装できるかを考えていくわけですが、その際、そもそもハードウェア(以下、ハード)に必要な機能が備わっているかを見直す必要が出ることもしばしばあります。
例えば、「ワークをチャックでつかみに行く際、そのワークが裏表反対になってしまったら異常で止めたい」とした場合には、そもそもワークの裏表を検知できるハードが必要です。また、異常を検知し、装置の一部だけを停止させる際には、下手をすると、前工程や次工程の機械との動きがかみ合わなくなり、不具合を起こすことも考えられます。
こうしたことは電気ハードにも当てはまり、特に安全に関わる異常機能では、PLCやラダー回路だけにとどまらず、「安全PLC」や「セーフティコントローラー」「セーフティリレー」や「マグネットコンタクター」といった機器の構成にも依存するケースが多々あります。そのため、「○○だけ動力を落として機械を止めたい」としても、電気ハード的に場合分けできないときには、「動力を落とすとなると、設備全ての動力を落とすしかない」こともあり得ます。
加えて、高確率で検討漏れしがちなのが「機械が止まった際の仕掛中の稼働データの取り扱い」です。
最近の生産設備では、稼働データ(サイクルタイムやNG品の数など)を保存しておきたいという仕様が一般的です。ただし、PLC内で保持できるデータ量はそこまで多くないため、SDカード、NAS、データベースへ保存することがよくあります。しかし、異常で停止した際にはそのデータは仕掛りとなるため、それをどのように扱うかという問題が発生します。
具体的には、
などが挙げられます。
筆者の経験上、このことを機械屋さんに聞くと、「使うかどうかは分からないけれど、取りあえず一通り保存した上で、異常ステータスも保存しておいて」といわれるのですが、ほとんどの場合、現場作業の片手間で対応できる量をはるかに超える作業になります。
仕様書に記載がなければ、要望を出した時点で追加請求が発生する事案となるため、要望を出す前に「本当にそれを追加すべきかどうか」「追加するのであれば、そのための予算やスケジュールは確保できるか」を慎重に検討、判断しなければなりません。 (次回へ続く)
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
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