連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第12回は、ソフトウェア設計者が現場で困惑してしまう、機械設計者からの追加要望【異常編】をテーマにお届けする。
本連載は、前回シリーズ「いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い」をイントロダクションと位置付け、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説していきます。
生産設備のプロジェクトでは、機械設計者または機械系出身の人(以下、機械屋さん)がプロジェクトマネジャーになるケースが非常に多くあります。機械屋さんが仕様を決めて機械設計を行い、その後に電気設計、ソフトウェア(以下、ソフト)設計へと移ります。
各技術者が仕事をするに当たっては「設備仕様書」が必要となり、その内容を満たせるようにおのおの設計を進めていきます。
しかし、筆者の経験上、これらの中でも特に「ソフトの仕様」は曖昧で、生産設備を納品する直前まで引きずるケースが多くあります。
その曖昧な部分について、ソフト設計者が機械屋さんに確認しても明確な回答が得られない上に、納期が差し迫った状況でソフト設計の指示を受けることも少なくありません。そのため、ソフト設計者は自己判断で設計を進めざるを得ない場合があります。
そして、いざ現場でソフトを実装していると、そこで初めてお客さんや機械屋さんから、
思っていたのとなんか違う
やっぱり〇〇のように変更してほしい
〇〇の機能を追加してほしい
といった具体的な要望が出てくるのです。
その結果、急きょ現場で仕様書にない作業が発生したり、想定工数を大幅にオーバーしたり、さらには、現場で口論になることもあります……。こうした出来事は、ソフト設計者であれば誰もが一度は経験したことがあるでしょう。
中でも比較的多いのが「設備の異常」に関する要望で、ソフトを実装した後に、機械屋さんから「〇〇のときに異常の通知が出るようにしてほしい」といわれることがよくあります。もちろん、機械屋さんは“現場の作業者が快適に装置を使用できるように”との思いで提案や依頼をしているわけですが、ソフト設計者からすると「それを納品直前に言われても……」と非常に困惑します。
一方、ソフトに関する知見がほとんどない機械屋さんの立場からすると、「PCで少し作業するだけなのに、なぜ快く対応してくれないのか?」といった思いもあるでしょう。
お互いにモヤモヤするこうしたやりとりの主な要因は、どこにあるのでしょうか?
結論を言うと、「異常の通知が出るようにしてほしい」というだけでは、ソフトの設計はできないからです。
そこで今回は、現役で機械屋さんと電気制御屋さんの両方の仕事をしている筆者の経験を踏まえ、設備の異常機能の追加要望について、“なぜ現場でソフト設計者が困惑するのか”を解説したいと思います。
ソフトのことを理解している機械屋さんは少ないと思いますので、今回の内容を、現場トラブルの削減に役立てていただければ幸いです。
ソフト設計者が現場でソフトのデバッグ作業をしていると、「これぐらいササッと対応できるでしょ?」と言わんばかりに、機械屋さんから異常機能の追加要望が来ることがあります。
しかし、実際には「異常」と一口に言っても、その内容は多様です。例えば、
などが挙げられます。なお、企業や担当者によっては、上記の一部を異常と区別して、「警告」「警報」「通知」と呼ぶこともあるため、なかなかややこしい場合があります。
そして、これら異常の種類(あるいは警告、警報などの分類)ごとに、通知の方法が異なるケースも多くあります。
通知方法は主に、
の3つの組み合わせで構成されます。例えば、「機械の故障を防止するためのもの」と「ポカミスを防止するためのもの」とで、通知方法が異なることはよくあります。
さらに、現場でふと出てきたような異常の追加については、人によってその種類分けや区別が異なることが多く、同じ現場でも、
赤ランプの点灯だけでいい
ブザーも鳴らしてほしい
タッチパネル上でメッセージが出るだけでいい
そもそもそんな機能はいらない
など、人によって言うこと(要望)がバラバラな場合も多くあります。
それに加えて、その異常の発生履歴を保存するかどうか、保存する場合はどこに(PLC、SDカード、データベースなど)、過去何件分まで保存できるようにするのか、といった項目についても定義する必要があります。
ソフト設計者の立場からすれば、「異常機能について、現場で急きょ『実装してほしい』というのであれば、そのあたりの仕様を関係者同士できちんと取りまとめてから要望を出してほしい」ということです。
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