ギガキャストの基礎的な鋳造法「ダイカスト」とは何かいまさら聞けないギガキャスト入門(2)(3/6 ページ)

» 2025年09月08日 08時00分 公開

3.ダイカストの特徴と鋳造の原理

ダイカストとは

 繰り返すが、ダイカスト(Die Cast)は直訳すれば金型鋳造法となる。正式には(Die Casting)という。Dieとは、金属製の精密な鋳型、つまり金型のこと。Castingとは、鋳造のこと。Die Castingからダイキャストともいう。

 図5に示すように、ダイカスト法は精密金型鋳造法の一つで、金属製の鋳型に溶湯を高温にして、高速/高圧力によって流し込み、極めて複雑な形状ながら極めて鋳肌(製品品位)の良い鋳物を短時間で大量に生産できる。充填時間は約0.1秒と極めて短時間である。

図5 図5 ダイカスト法とは[クリックで拡大] 出所:リョービ

ダイカストのメリットとデメリット

 ダイカスト法のメリットは、砂型鋳造や他の金型鋳造法に比べて、射出成形と同じように金型に高速に高い圧力をかけるので、普通鋳物より寸法精度や面粗度(製品品位)が高く、成形性を生かした工法といえる。

 図6にダイカスト法の主な特徴を示す。

  • (1)複数部品を1つの部品に一体成形して機能の集約化ができ、さらに、その一体化部品の精度(寸法、形状)や品質(鋳肌面粗度、製品品位)が非常に優れている
  • (2)製品の肉厚(壁厚)を1〜3mm程度まで薄くして除肉でき、またコーナー(R)の小さい形状や複雑な形状の製品を除肉して、必要があればリブを補強、補剛して製作でき、軽量化が図れる
  • (3)製品の強度が高いので設計の自由度が保たれる
  • (4)製品形状によるエネルギー吸収(EA)機能※6)を実現して、大量に生産できる
図6 図6 ダイカスト法の主な特徴[クリックで拡大] 出所:リョービ

※6)エネルギー吸収(EA:Energy Absorption)機能は、近年とみに注目されている技術で、クルマなどへの衝撃や衝突時に発生するエネルギーを吸収し、その力を緩和する機能のこと。特に自動車分野で、乗員保護や部品の破損防止のために重要な役割を果たす。前者については、衝突時に発生する衝撃を吸収し、乗員へのダメージを軽減する。例えば、ステアリングホイールのEAパッドや、車両の骨格部分に設けられたEA構造などが挙げられる。後者は、衝突時におけるバッテリーなどの高価な部品や車両の主要構造の保護が想定される。例えば、EVのバッテリーパック側面に取り付けられるロッカーEA材(出所:旭化成 エンプラ総合情報サイト)などが該当する。

 これらの特徴から、ダイカスト製の部品は自動車で最も多く使用されるが、他にも家電、事務機器、日用品や雑貨など幅広く使われている。また、板金部品を代替する際にも用いられる。

 図7に示すように、ダイカストはCO2排出量の削減や資源再利用の観点でメリットがありSDGs※7)や地球温暖化防止につなげやすい。

図7 図7 ダイカストはCO2排出量削減や資源再利用の観点で効果的[クリックで拡大] 出所:リョービ

※7)SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2016年から2030年までに達成を目指す国際目標。17の目標と169のターゲットから構成され、貧困、飢餓、教育、ジェンダー、気候変動など、地球上のさまざまな課題を解決し、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指す。

 一方、デメリットとしては、ダイカスト鋳造するための機器などが大掛かりで手間が掛かる点が挙げられる。また、個々の部品の製造コストは低いものの、金型が高価であるため初期投資費用が高額になる。部品内部に巣(引け巣:微小な空洞のこと)が生じやすく、それが原因で部品の破断などにつながる恐れもある。このため、CAEやシミュレーションによる解析技術の活用が必須となる。

ダイカスト鋳造の原理

 ダイカストとは、(1)型締めされた金属製の精密な鋳型(金型)の隙間(製品形状)に、(2)溶かした合金を流し込み(給湯)、(3)圧力をかけて圧入してから、(4)冷却と凝固を行い、(5)型開き、(6)押出し(中子もどし)、(7)製品の取り出しを行って鋳造する方法である。

 図8にダイカストの鋳造工程を示す。ダイカストの鋳造工程は以下の順になる。

  • (1)型締め(中子入れ)
  • (2)給湯
  • (3)圧入
  • (4)冷却、凝固
  • (5)型開き
  • (6)押出し(中子もどし)
  • (7)製品の取出し
図8 図8 ダイカストの鋳造工程と、コールドチャンバー方式とホットチャンバー方式の工程の比較[クリックで拡大] 出所:武藤一夫、高松英次「これだけは知っておきたい金型設計・加工技術」

 ダイカストの鋳造方法には、コールドチャンバー方式とホットチャンバー方式がある。

 コールドチャンバー方式は、射出装置と溶湯保管部が分離しており、主にアルミニウム合金のダイカストに使用される。

 ホットチャンバー方式は、射出装置と溶湯保管部が一体化しており、主に亜鉛合金やマグネシウム合金のダイカストに使用される。

 図8にコールドチャンバー方式とホットチャンバー方式の工程の比較を示す。

 ダイカスト鋳造を行う上では、その鋳造方法の種類、型込め法、金型分割面などをあらかじめ決めておく必要がある。

 この他、ダイカストの金型の構造では、湯道、湯口、湯だまり、ガス抜き、中子、入れ子(いれこ)などのダイカスト鋳造独特の鋳造万案の工夫が必要である。

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