ギガキャストの基礎的な鋳造法「ダイカスト」とは何かいまさら聞けないギガキャスト入門(2)(2/6 ページ)

» 2025年09月08日 08時00分 公開

鋳造法の代表例「奈良の大仏」

 読者の皆さんもよく知っているであろう鋳造法で作られたものの代表例としては、東大寺の大仏殿に安置されている奈良の大仏、廬舎那仏(るしゃなぶつ)※4)座像がある。今から約1300年前、天平17年(745年)に聖武天皇が日本国の安寧を発願して制作が開始され、その9年後の天平勝宝4年(752年)に開眼供養会が行われた。

 図2に、現在の奈良の大仏と、約1300年前に作られた際の製造法を示す。

図2 図2 奈良の大仏(廬舎那仏)は鋳造法でつくられた[クリックで拡大] 出所:(図左)東大寺Webサイト、(図右)詳説日本史図録編集委員会「詳説日本史図録 第3版」、山川出版社、2010年1月31日、p56

※4)毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ、サンスクリット語でVairocana:ヴァイローチャナ)は、「光明遍照(こうみょうへんじょう)」を意味し、仏教における信仰対象である如来の一尊。華厳経において中心的な存在として扱われる尊格で、密教では大日如来。尊名は華厳経では「舎」の字を用いて毘盧舎那仏、大日経では「遮」を用いて毘盧遮那仏と表記。

 高さ15mもの大仏づくり(像高14.98m、目長1.02m、耳長2.54m、顔長5.33m、鼻高0.50m、座高3.05m)には、当時の最新の技術が使われた。大仏は銅像であり、銅を500トン、鍍金(ときん=金メッキ)のために金を440kg、その溶剤として水銀を2.5トン使用した。

 図2の右側に示すように、まず仏像の中心に柱を立て、竹や木で骨組みを作る。周りを粘土で塗り固めて大仏の基となる原形を作る。その周りにさらに盛り土をして、外鋳型を作り、何回かに分けて下から順に銅を流しこむ。粘土でできた大仏の原型と外鋳型の間に隙間を作り、溶かした銅を流し込む。銅の温度は1000℃以上。日本における初めての大規模な仏像作りは、失敗や事故もあったと伝えられている。

 大仏作りに関わった人々の記録も残っている。金や銅、材木などの材料を提供した人、自ら働いた人など、それらの数を合わせると延べ260万人に上る。作り始めてから9年経過した752年4月9日、聖武太上天皇(上皇)自ら文武百官を率いて法要に臨み、1万人の僧侶が参加して、歌舞音曲が繰り広げられる華やかな大仏完成の儀式が盛大に行われた。大仏の目に筆で瞳を点じたのは、インドからの渡来僧である菩提僊那(ぼだいせんな、704〜760年)であった。

 大仏殿はその後、平安時代と戦国時代に戦禍に巻き込まれて焼け落ち、大仏そのものも傷ついた。現在の大仏の頭部は江戸時代に造られたもので、奈良時代の当初部分は、腹部から脚部にかけてと、台座の蓮弁(れんげの花びら)などに残っている。

 さて、図1の金型鋳造法に着目してもう少し詳しく分類すると図3のようになる。

図3 図3 金型鋳造法のより詳しい分類[クリックで拡大] 出所:武藤一夫、高松英次「これだけは知っておきたい金型設計・加工技術」

 重力鋳造法(Gravity Die Casting)は、溶湯を金型や砂型に重力で流し込み、冷却/凝固させる方法である。比較的簡単な設備で、比較的大きな部品や、強度を必要とする部品の製造に適す。

 低圧力鋳造法(Low Pressure Die Casting)は、金型に溶湯を低圧でゆっくりと圧入し、冷却/凝固させる方法。湯流れが良く、鋳巣(ちゅうす)の少ない高品質な鋳物が得られる。低圧とは、大気圧よりもわずかに高い数十kPa(キロパスカル、例えば1.0kgf/cm2は100kPa)の圧力を加える。低圧といっても意外に大きい圧力である。

  • 遠心鋳造法(Centrifugal casting):鋳型を高速回転させ、その遠心力を利用して溶融金属を鋳型内に流し込み凝固させる鋳造法。この方法では、中子(なかご)を使わずに円筒形の製品を製造できることや、組織が緻密になるなどの特徴がある
  • 特殊充填鋳造法(T-SIP):リョービが開発した低圧鋳造法の一種で、従来の低圧鋳造法の課題を克服し、薄肉軽量な鋳物や複雑な形状の鋳物を高精度で成形できる技術である。特に、保持炉の分離や給湯装置の制御により、充填(じゅうてん)速度や圧力を精密に管理することで高品質な鋳造を実現している

 そしてダイカスト法(Die Casting)は、精密に作られた金型に溶湯を高速に高圧で射出/充填し、冷却/凝固させる方法である。高い寸法精度と表面品質が得られるため、自動車部品や電気機器部品など、大量生産される精密部品の製造に適している。

  • PF(Pore Free:無孔性)ダイカスト法:ダイカスト成形において、金型内の空気を酸素などの活性ガスで置換し、溶湯を射出する際にアルミ合金と酸素を反応させることで、ガス欠陥の少ない緻密な鋳物を得る技術。強度や切削加工性が向上し、T6熱処理※5)などの熱処理も可能になる
  • 真空ダイカスト法:金型内の空気を真空ポンプで吸引し、減圧状態にして溶湯を注入することで、鋳造欠陥を抑制するダイカスト法の一種。具体的には、金型内の空気を抜くことで、溶湯の注入時に空気が巻き込まれるのを防ぎ、鋳巣(ちゅうす)の発生を抑制する。また、湯流れが良くなるため、薄肉製品や複雑な形状の製品の製造にも適している
  • 超真空ダイカスト法:真空ダイカストの一種で、金型内をより高い真空度(通常10kPa以下)にすることで、ガス巻き込みや湯流れの改善を目的とした鋳造技術。これにより、従来の真空ダイカストでは難しかった高品質な製品、特にバッテリーケースといった自動車部品や薄肉部品の製造が可能になる
  • アキュラッド法:ダイカストにおける品質向上技術の一つで、特に肉厚のある鋳造部品の強度を向上させるために用いられる。具体的には、溶湯を金型に注入した後、内部プランジャーを前進させることで、凝固中の加圧効果を高め、鋳巣の発生を抑制する。これにより、強度が高く、熱処理にも適したダイカスト製品を製造できる

※5)T6熱処理は、アルミニウム合金の強度と硬度を向上させる熱処理方法。具体的には、高温で合金成分を均一に固溶させた後、急冷(焼入れ)し、最後に適度な温度で加熱する人工時効処理(焼き戻し)を行うことで、微細な金属間化合物を析出させ、材料の強度を高める。この処理は、アルミニウム合金の強度を最大化するのに適しており、特に切削加工性の向上も期待できる。

 図4は、上述した種々のダイカスト法について、ダイカスト製品の肉厚と強度/要求品質などで分かりやすく区別できるようにしたものだ。実際のダイカスト製品がどのうようなダイカスト法で作られているのかが理解できるだろう。

図4 図4 ダイカスト製品の肉厚と強度、要求品質で区別したダイカスト法の分類[クリックで拡大] 出所:リョービ

 ここまで説明したように、ダイカストは鋳造法のうち金型鋳造法の一つに分類される。ギガキャストは、このダイカストを基礎技術としているのである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.