読者の皆さんもよく知っているであろう鋳造法で作られたものの代表例としては、東大寺の大仏殿に安置されている奈良の大仏、廬舎那仏(るしゃなぶつ)※4)座像がある。今から約1300年前、天平17年(745年)に聖武天皇が日本国の安寧を発願して制作が開始され、その9年後の天平勝宝4年(752年)に開眼供養会が行われた。
図2に、現在の奈良の大仏と、約1300年前に作られた際の製造法を示す。
※4)毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ、サンスクリット語でVairocana:ヴァイローチャナ)は、「光明遍照(こうみょうへんじょう)」を意味し、仏教における信仰対象である如来の一尊。華厳経において中心的な存在として扱われる尊格で、密教では大日如来。尊名は華厳経では「舎」の字を用いて毘盧舎那仏、大日経では「遮」を用いて毘盧遮那仏と表記。
高さ15mもの大仏づくり(像高14.98m、目長1.02m、耳長2.54m、顔長5.33m、鼻高0.50m、座高3.05m)には、当時の最新の技術が使われた。大仏は銅像であり、銅を500トン、鍍金(ときん=金メッキ)のために金を440kg、その溶剤として水銀を2.5トン使用した。
図2の右側に示すように、まず仏像の中心に柱を立て、竹や木で骨組みを作る。周りを粘土で塗り固めて大仏の基となる原形を作る。その周りにさらに盛り土をして、外鋳型を作り、何回かに分けて下から順に銅を流しこむ。粘土でできた大仏の原型と外鋳型の間に隙間を作り、溶かした銅を流し込む。銅の温度は1000℃以上。日本における初めての大規模な仏像作りは、失敗や事故もあったと伝えられている。
大仏作りに関わった人々の記録も残っている。金や銅、材木などの材料を提供した人、自ら働いた人など、それらの数を合わせると延べ260万人に上る。作り始めてから9年経過した752年4月9日、聖武太上天皇(上皇)自ら文武百官を率いて法要に臨み、1万人の僧侶が参加して、歌舞音曲が繰り広げられる華やかな大仏完成の儀式が盛大に行われた。大仏の目に筆で瞳を点じたのは、インドからの渡来僧である菩提僊那(ぼだいせんな、704〜760年)であった。
大仏殿はその後、平安時代と戦国時代に戦禍に巻き込まれて焼け落ち、大仏そのものも傷ついた。現在の大仏の頭部は江戸時代に造られたもので、奈良時代の当初部分は、腹部から脚部にかけてと、台座の蓮弁(れんげの花びら)などに残っている。
さて、図1の金型鋳造法に着目してもう少し詳しく分類すると図3のようになる。
重力鋳造法(Gravity Die Casting)は、溶湯を金型や砂型に重力で流し込み、冷却/凝固させる方法である。比較的簡単な設備で、比較的大きな部品や、強度を必要とする部品の製造に適す。
低圧力鋳造法(Low Pressure Die Casting)は、金型に溶湯を低圧でゆっくりと圧入し、冷却/凝固させる方法。湯流れが良く、鋳巣(ちゅうす)の少ない高品質な鋳物が得られる。低圧とは、大気圧よりもわずかに高い数十kPa(キロパスカル、例えば1.0kgf/cm2は100kPa)の圧力を加える。低圧といっても意外に大きい圧力である。
そしてダイカスト法(Die Casting)は、精密に作られた金型に溶湯を高速に高圧で射出/充填し、冷却/凝固させる方法である。高い寸法精度と表面品質が得られるため、自動車部品や電気機器部品など、大量生産される精密部品の製造に適している。
※5)T6熱処理は、アルミニウム合金の強度と硬度を向上させる熱処理方法。具体的には、高温で合金成分を均一に固溶させた後、急冷(焼入れ)し、最後に適度な温度で加熱する人工時効処理(焼き戻し)を行うことで、微細な金属間化合物を析出させ、材料の強度を高める。この処理は、アルミニウム合金の強度を最大化するのに適しており、特に切削加工性の向上も期待できる。
図4は、上述した種々のダイカスト法について、ダイカスト製品の肉厚と強度/要求品質などで分かりやすく区別できるようにしたものだ。実際のダイカスト製品がどのうようなダイカスト法で作られているのかが理解できるだろう。
ここまで説明したように、ダイカストは鋳造法のうち金型鋳造法の一つに分類される。ギガキャストは、このダイカストを基礎技術としているのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.