中国系自動車メーカーによる日本市場への本格的な参入が進む中、日系自動車メーカーは今後いかなる戦略的思考が求められるのであろうか。筆者は、以下の3点に着目すべきではないかと考える。
BYDによる軽EVの日本市場投入は、今後の競争構造に大きな影響を及ぼす可能性がある。スズキやダイハツ工業といった軽自動車の主要メーカーも、もはや傍観者でいることは許されない状況となる。かつてアサヒビールが「スーパードライ」を市場投入した際に国内ビール市場全体が活性化したように、軽EVは日本の自動車産業における新たな主戦場となることが予想される。
さらに、BYDは単一車種の投入にとどまらず、継続的かつ計画的な新型軽EVの導入を視野に入れていると考えられる。従って、日系メーカーも従来の製品ライフサイクルに依存するのではなく、商品企画の連続性と柔軟性を持った開発体制への転換が求められるであろう。
米国通商代表部(USTR)による非関税障壁への指摘を受け、日本政府はこれまでの補助金制度の見直しに合意した。従来、BEVには最大90万円、PHEVには最大60万円、FCEV(燃料電池車)には最大225万円の補助金が設定されていたが、FCEVへの過剰な補助が問題視されたことに端を発し、制度全体の公平性が問われることとなった。
この見直しは、補助金の金額だけでなく、輸入車と国産車との間に設けられていた待遇差にも及ぶ可能性が高い。結果として、BYDの軽EVも国産車と同等の補助金対象となることが予測される。そのため今後は、補助金による競争優位性を前提とした戦略は成立しにくくなり、商品そのものの競争力強化がより重要となる。
BYDはこれまで、タイやブラジルなどの主要市場において現地生産体制を構築してきた。日本市場においても、軽EVの販売実績が一定の水準に達した段階で、国内生産への移行が現実味を帯びる。
仮に中国製から日本製への生産移管が実現すれば、消費者の中国企業の商品に対する懸念は徐々に払拭(ふっしょく)されることが期待される。BYDは長期的な視点で日本市場への参入を進めており、日系自動車メーカーはこれを一過性の現象として捉えるのではなく、軽自動車市場におけるシェア争いと商品ポジショニングの再構築を迫られる局面にあると考えることが適切ではないだろうか。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.