BYDはこれまでグローバル基準に基づいて品質管理を行ってきたと考えられるが、今回の軽EVは初の日本専用車であり、品質に対する要求水準が極めて高い日本市場において、従来以上の品質確保が求められる。
2025年後半にはPHEVの投入も予定されているが、販売店舗数の拡充は依然として課題である。2026年に軽EVを本格的に展開するためには、販売およびアフターサービス要員の確保と育成が不可欠である。
最後に、日本市場における最大の障壁となり得るのが、中国企業の商品に対する消費者の不信感と慎重な購買姿勢である。2024年におけるBYDの国内販売台数は約2200台にとどまり、テレビCMなどを通じてブランド認知度の向上を図ってはいるものの、中国企業が製造した商品に対する心理的抵抗は依然として根強い。特に自動車のような高額商品においては、スマートフォンとは異なり、購入に対する慎重な判断が働く傾向が強い。
ここまで挙げたように多くの要素から、日本市場に軽EVを投入することは経済合理性に基づいた選択とは言い難い。それでもBYDはこの領域に資源を投入しようとする意図はどのようなものであろうか。同社がこの領域に対して積極的に資源を投入する背景には、単なる販売台数や収益の追求を超えた、より戦略的な意図が存在すると思われる。
あくまで筆者の私見であるが、BYDの軽EV市場参入の主眼は「戦略的プレゼンス」の確立にあると考えられる。「戦略的プレゼンス」とは、軍事戦略やマーケティング領域において用いられる概念であり、特定地域における象徴的な存在感を確立することを目的とする。これは、直接的な市場支配を目指すものではなく、ブランドの認知度向上や競合他社との違い明確化、将来的な市場展開の布石として機能する。
この戦略的プレゼンスの確立を目的とした場合、BYDの軽EV投入には以下のような意図が読み取れる。
そして、BYDが当該戦略を採用するに至った背景には、以下の要因が影響していると考えられる。
これまでのBYDによる市場開拓の動向を踏まえると、2026年に軽EVを日本市場へ投入することは、橋頭堡(ほ)としての位置付けであろう。おそらく、2027年および2028年にかけて、新型軽EVの継続的かつ途切れのない導入が計画されていると推察される。
これらの車両群においては、共通のプラットフォームおよび基幹部品を活用する一方で、外観および内装の意匠に差異を持たせることで、商品ごとに異なるイメージを創出し、消費者に対する訴求力を高める戦略が採用されると考えられる。
このような展開は、日系自動車メーカーが一般的に採用している、1車種の販売後に4〜5年のスパンを空けて次期モデルを投入するという長期的な商品サイクルとは一線を画す。BYDは、多様な軽EVを短期間で連続的に市場投入することにより、ブランドイメージの定着を図るとともに、消費者との接点を継続的に維持/拡大することを意図しているのではないだろうか。
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