今回の実験でも、筆者が所持しているハンディーオシロスコープ「OWON HDS272S」を用いて観測します。このオシロにはシグナルジェネレーターの機能があり、これで生成した信号を入力信号とします。入力信号は1Vpp(波形の振幅の山から谷までの電位差が1V)で、周波数は1kHzです。
なお、各入力波形の説明はコンデンサーを用いた微分回路をテーマにした連載第14回を参照してください。
図2は正弦波の入力波形と出力波形を比較するためのものです。
図2上側の波形が入力波形です。下側の波形が微分回路を経た後の波形です。理論上は正弦波(sin)を微分すると余弦波(cos)になります。これは元の波形に対して時間軸上で90度進んだことになり、4分の1波長分右にずれた波形になります。
図3は矩形波の入力波形と、微分回路を通した後の出力波形を表示したものです。
図3上側の波形が入力した矩形波です。下側がコイルによる微分回路を経た波形になります。矩形波の立ち上がりでスパイク状のパルスが正方向に出ます。一方、矩形波の立ち下がりの時点でスパイク状のパルスが負の電圧方向に出ています。
図4はノコギリ波の入力波形と、微分回路を通した後の出力波形を表示したものです。
図4上側の波形が入力したノコギリ波です。下側がコイルによる微分回路を経た波形になります。ノコギリ波の立ち上がりでスパイク状のパルスが正電圧方向に出ます。入力電圧が頂点まで達した後、一定の速さで電圧が下がります。このとき、図4では確認しにくいのですが負電圧が発生しています。
ここからはコイルの微分作用の応用例を幾つか紹介しましょう。
コイルは、入力信号の急激な立ち上がりや立ち下がりにのみ反応し、それ以外に入力信号が一定の状態ではほとんど電圧を発生しません。この性質を利用して、矩形波(ON/OFFが急に切り替わる信号)を入力すると、その立ち上がりと立ち下がりの瞬間にだけ鋭いパルス(針のような短い電圧)を生成できます。
この作用の応用例として、デジタル回路で信号のエッジ(立ち上がりや立ち下がり)を検出する際に利用されることがあります。例えば、ある動作の開始や終了の「きっかけ」を電気的に捉えるような場合です。
コイルと磁石を組み合わせると、磁場の変化の速さを検出するセンサーとして機能します。例えば、歯車のようなギザギザした物体がコイルの近くを通過すると、磁場の変化(=磁束の微分)が生じてコイルに電圧が発生します。この電圧のパルス間隔から物体の回転速度などを計測できます。
この応用例としては、自動車の車速センサー、エンジンの回転数センサー(クランク角センサー)、ABS(アンチロックブレーキシステム)の車輪速センサーなどがあります。
コイルの微分作用を極端な形で利用したのが、誘導コイルや自動車の点火プラグに高電圧を発生させるイグニッションコイルです。急激に電流を遮断すると、コイルには非常に大きな逆起電力(急な変化を妨げる電圧)が発生します。
他の応用例としては、古いブラウン管テレビの水平偏向回路などで高電圧を生成するために使われていたことがあります。
受動素子一番の不思議ちゃんデバイスとの異名もあるコイルですが、その微分作用について書いてみました。いかがだったでしょうか。これをきっかけに電子回路と微分作用について興味を持っていただければありがたいです。
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