確率統計で考える公差設計若手エンジニアのための機械設計入門(7)(2/2 ページ)

» 2025年08月04日 06時00分 公開
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標準正規分布とは?

 正規分布とは、データが平均値を中心に左右対称にバラつく、滑らかな山形のグラフです。このうち、特にシンプルな形のものが「標準正規分布」と呼ばれます。平均値(μ)=0、標準偏差(σ)=1のとき、この分布を「N(0,12)」と表記します。

標準正規分布 図3 標準正規分布[クリックで拡大]

 図3は、標準正規分布のグラフを示しています。このグラフの横軸は、標準偏差の何倍に相当するかを表しています。そのため、±1の区間では1倍、±2の区間では2倍、±3の区間では3倍となります。

 標準正規分布は、「平均が0、標準偏差が1」に統一された、特別な正規分布の形です。しかし、実際に発生する正規分布をヒストグラムで表すと、平均値は0ではない場合が多く、図4のようになります。

実際の正規分布 図4 実際の正規分布[クリックで拡大]

 不良率を求めるには、「標準正規分布表」を使用します。標準正規分布表は、「標準正規分布において、ある値以上となる確率」を示しているため、図4のような任意の平均値と標準偏差を持つ正規分布から、そのままでは不良率を求めることができません。

 そのため、実際の正規分布(平均値μ、標準偏差σ)を標準正規分布に変換する「標準化」を行う必要があります。標準化によって、任意の正規分布を「平均0、標準偏差1」の形に変換できるようになり、標準正規分布表を用いて不良率を求めることが可能になります(図5)。

標準正規分布表 図5 標準正規分布表[クリックで拡大]

 標準正規分布表を使用するためには、正規分布を標準正規分布へ変換する、標準化を行う必要があります。そのイメージを図6に示します。

標準正規分布への変換(標準化) 図6 標準正規分布への変換(標準化)[クリックで拡大]

不良率を求める

 数学のテストがありました。生徒全体の平均点は70点、点数のバラつき(標準偏差)は10点で、点数は正規分布に従っているとします

 先生はこう言いました。「60点未満は補習です」。テストの点数は、実施するごとに平均点やバラつきが異なるため、単に「60点」という数値だけでは、その良しあしを判断できません。そこで使うのが「標準化」です。つまり、その点数が平均からどれだけ離れているかを示す必要があります。

Z=(60−70)/10=−1.0

 60点は、平均より1つ分(1σ)下の位置にあることを意味します。Z=−1.0以下に該当する人が全体の中でどれくらいいるかは、標準正規分布表で確認します。Z=−1.0のとき、左側の確率は15.9%です。つまり、このテストでは約15.9%の生徒が60点未満で不合格になると予測できます。

 この考え方を製造業に置き換えると、次のような対応関係になります(表1)。

テストの話 製造の話
点数のバラつき 寸法のバラつき
不合格ライン60点 上限/下限の公差
不合格者の割合を予測 不良率を予測
表1 標準正規分布表から不良率を求める


 次回は、実際のモデルから不良率を推測します。(次回へ続く

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著者プロフィール

土橋美博(どばし よしひろ)

半導体組み立て関連装置メーカー、液晶パネル製造関連装置メーカーを経て、「メイドINジャパンを、再定義する。」有限会社スワニーに入社。CIOとして最新デジタルツールによるデジタルプロセスエンジニアリング推進に参画する。

ソリッドワークス・ジャパンユーザーグループ(SWJUG)、ワールドワイドのソリッドワークス・ユーザーグループネットワーク(SWUGN)のリーダーも務める。


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