東京大学は、厚さ70nmの超軽量多孔質架橋超薄膜を開発した。低コストな原料と簡便な製造法で生成可能で、通常の樹脂の約3〜4倍の力学強度を持つため、スマート分離膜やエネルギーデバイスへの応用が期待される。
東京大学は2025年7月4日、過去最高の力学強度を持つ超軽量多孔質架橋超薄膜の開発に成功したと発表した。
研究グループは、レゾルシノールとホルムアルデヒドの水溶液に電極を入れ、+5Vの電圧を2分間印加することで超薄膜を製造した。レゾルシノールとホルムアルデヒドはどちらも市販されている低コストな試薬だ。
レゾルシノールとホルムアルデヒドの混合物の水溶液に電極を入れ電圧を印加後、電極の表面全体を均一に覆うように架橋重合反応が起こり、厚さ70nmで欠陥のない、ヘチマスポンジに似た架橋構造を持つ大面積の超薄膜が生成される。電圧を切ると、超薄膜は電極表面から自発的に剥がれて浮かんでくるため、Roll-to-Roll方式で効率的に大量生産できる。
この製造工程では、原料や生成物が負に帯電して電気二重層が形成され、負電荷同士が互いに反発することで多孔質構造が形成される。
生成した超薄膜は、乾燥状態での密度は通常のポリマーの約半分だが、ヤング率が通常の樹脂の約3〜4倍と非常に力学強度が高い。これまでは、軽量と高い力学強度を両立する人工の多孔質ポリマー材料は特殊加工の繊維以外に存在しなかった。
また、この薄膜はpH応答性を利用すると、物質透過のON、OFFを自動的に切り替えられるスマート膜分離が可能になる。抗菌、抗ウイルス性も備え、感染防止フィルターとしての応用も期待できる。蒸し焼きにすれば、形状と多孔質性を維持したまま、導電性多孔質炭素薄膜へと変換可能で、電気二重層キャパシターの電極素材としても利用できる。
プラスチック廃棄物による環境への負荷が問題となっている。そうした状況において、少ない資源から環境に負荷をかけずに大きな物体を作成できる低密度の多孔質ポリマーは、持続可能な社会の構築への貢献が期待される。
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