東京大学大学院と日本ペイントは塗膜の抗菌効果をリアルタイムで可視化する評価系を開発した。
東京大学大学院と日本ペイントは2025年2月3日、塗膜の抗菌効果をリアルタイムに可視化する評価系を開発したと発表した。この研究開発は、東京大学大学院系研究科 助教の中村乃理子氏、准教授の太田誠一氏と、日本ペイント 研究員の宮前治氏らの研究グループが担った。
今回の研究グループは、緑色蛍光タンパク質を発現する大腸菌を使用し、LED光源、光学フィルター、デジタルカメラを組み合わせた蛍光観察装置で画像を取得することにより塗膜上で増殖した細菌の空間分布をリアルタイムに可視化することに成功した。
従来の蛍光顕微鏡を用いた観察では塗膜上における細菌の空間分布の数μm四方しか評価できず、観察対象も励起光が透過可能な透明な塗膜に限られていた。
今回の手法では独自の観察装置を用いることにより数cm四方の不透明な塗膜上の細菌の空間分布を連続的に取得することに成功した。取得した蛍光画像を、蛍光タンパク質の平均輝度、塗膜中央に引いた直線上の輝度分布、塗膜全体における輝度のばらつきという定量的な指標に変換し、塗膜の大きさや培養液量が評価結果に与える影響を系統的に検討した。最適化した観察条件に基づき、ISO規格でも既にその性能が評価されている抗菌塗膜上で細菌の増殖が抑制される様子をリアルタイムで可視化し抗菌効果を実証することに成功した。
同手法は蛍光タンパク質を発現させた他の細菌種にも幅広く適用できる。そのため病原性細菌を用いて実用的な評価が行える。この手法は、さまざまな抗菌塗膜の性能をより正確に評価できる他、リアルタイムでその効果を可視化し製品の普及を促進して感染症予防に貢献することが期待される。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染症を予防するためには、医療施設や公共交通機関などで人が頻繁に触れる場所に抗菌、抗ウイルス性の塗膜を用いることが有効とされている。
従来このような抗菌塗膜の性能評価にはISO規格が用いられてきたが、この手法は塗膜上で増殖した菌を培地で洗い出してから寒天培地上で再度培養して評価するため、空間的な菌の分布やリアルタイムの情報を得ることは不可能だった。
また、塗膜上に散在する細菌の密度など、さまざまな要因が評価結果に影響することが明らかにされている。しかし、これらの要因を系統的に検討し効果的な評価を行うのは難しいという問題があった。
これらの理由から、抗菌塗膜の性能をより正確に評価し、一般消費者に視覚的に伝達可能な評価系が求められていた。
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