記者発表の後半ではKyoHAのコアメンバーによるトークセッションも行われた。
村田製作所 モビリティ・ロボティクス事業推進課、新規事業推進課(兼) マネージャーの大場友嗣氏は、ヒューマノイド開発の中核プロジェクトに関われることに対し、「歴史的な場に立ち会えている」との言葉で喜びを表した。
大場氏は、2025年に米国で開催されたロボット展示会を訪れた際、日本のヒューマノイドが1台も展示されていないことに、強いショックを受けたという。
しかし同時に、そこで見たヒューマノイドの多くが「まだ研究開発段階であり、社会実装には至っていないことも痛感した」と語る。「だからこそ、自社が長年培ってきた“信頼性の高い電子部品の技術”を、この分野の実用化に生かしたい」(大場氏)。単なる技術連携ではなく、「志を共にする仲間たち」との連携で挑むこのプロジェクトに、大きな意義を感じているとのことだった。
続いて登壇した村田製作所 技術・事業開発本部 技術企画・新規事業推進統括部 新規事業推進2部 モビリティ・ロボティクス事業推進課 シニアマネージャーの大川明克氏は、これまで同社が、家電やスマートフォンといった生活に密接した分野で部品を提供し、社会の発展に貢献してきたことを紹介した上で、今後は「人命を守る領域にこそ、自社の技術を届けたい」と述べた。
災害現場での活動や医療現場での活用といった、人間が命を懸けて取り組む場面において、ヒューマノイドが力を発揮する未来を見据え、「自分たちの技術が、そうした社会実装の中で生きていくのであれば、共に挑戦する意味がある」と、静かだが確かな決意を語った。
また、早稲田大学の高西氏は、日本がかつてヒューマノイド研究で世界をリードしていたにもかかわらず、実用化の段階で後れを取ってきた背景について語った。
「論文や技術は世界から今でも参照され続けている。でも、日本は3〜5年の短期プロジェクトばかりで、継続的に投資できなかった」と高西氏は述べ、制度と戦略の不在が進化を止めてしまったと分析した。
一方で、高西氏は「ヒューマノイドが持つ産業的価値」は、これから爆発的に拡大すると見ている。「人間は200〜400万点の皮膚感覚と、数百の筋肉/関節を駆使して生きている。これを再現するには、センサー/アクチュエーター/制御の全ての掛け算が必要になる。その膨大さこそが、次の産業を生む。この技術を総合的に制御できる国こそが、次の時代の主導権を握る」と断言した。
テムザック 代表取締役社長の川久保勇次氏は、自身が“人の役に立つロボット”を20年以上作り続けてきた経緯を振り返った上で、今回のプロジェクトに懸ける強い意志を語った。
「今回作りたいのは、単に歩けるロボットではなく、命を救えるロボットだ。がれきの中で人命救助に関われるような強靭な身体を持つヒューマノイド。これを今、日本で作らなければならない」(川久保氏)
さらに同氏は「ハードとソフトを同時に開発し、何度も行き来する試行錯誤が必要だが、今回のメンバーならそれができる」と力強く語った。
SREホールディングス コンサルティング&テクノロジーソリューション事業本部の新村仁氏は「われわれには、“誰かの夢を形にする”というミッションがある」と話し、プロジェクトへの参加を“夢の実現”と捉えていると語った。
新村氏は、ヒューマノイドのような大型構想において、産業化と生活者視点の両立が重要だとも指摘する。「この連盟が、未来の暮らしを変える起点になる」と語り、エンドユーザーに届く“本当の意味での実装”を担う意志を示した。
今後の展開として、2025年度中にKyoHAを一般社団法人化した後、2026年12月末までには、レスキューヒューマノイドの試作機を完成するとしている。
「スケジュールがタイトではないか?」という記者からの質問に対して、プロジェクトメンバーからは「AIの進化は早い。1年半後には中国のヒューマノイドは空を飛んでいるかもしれない。どれだけスピードを上げて試作機を作り、社会実装に持って行けるかが勝負だと考えている」「やってみないと分からないが、自信はある」と回答した。
試作機完成以降の目標としては、2029年3月までに量産モデルの開発完了を目指す。最終的には、政府が設立を検討している防災庁向けに、日本発の先進装備品となる「レスキューヒューマノイド」の採用を目指すという。
KyoHAは今後も、開発パートナーや出資企業、協力自治体、教育・医療分野の実証フィールドを広く募集していく方針を示している。
また、単なる製品開発にとどまらず、若手人材の育成、次世代モーター/センサーの共同開発、そして日本独自のロボット倫理や社会受容性の検証も含めた、“総合的なヒューマノイド産業の構築”を目指している。
同プロジェクトは、技術者たちの誇りと危機感から生まれた、「産業の再興」と「命の現場に寄り添う技術」の両立をめざす挑戦だ。この日の会見で出た言葉の1つ1つは、日本が再び“モノづくりの誇り”を取り戻すための力強い宣言だったといえるかもしれない。
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