次に、京都発の純国産ヒューマノイド開発の中核を担うテムザックの代表取締役議長 高(正しい漢字ははしご高)本陽一氏からKyoHAの概要説明が行われた。同氏は、自らの経験と危機感を基に、プロジェクトの核心と意義を力強く語った。
高本氏は冒頭から、現状への強い警鐘を鳴らした。「今、世界はヒューマノイドラッシュに入っている。中国では60社以上が2足歩行ヒューマノイドを開発中。米国はテスラ(Tesla)を筆頭に巨額投資を進め、次の主戦場を見据えている」(同氏)。
それに対し、日本はかつてヒューマノイド研究の最前線にいたにもかかわらず、今やその姿は世界の展示会からも消えた。
かつては高度な2足歩行ロボットを作っていた日本。20年前には世界最高レベルの技術を誇っていたが、今やAIやロボットの世界シェアを中国に奪われている現状を「歯がゆい思いで見つめてきた」(高本氏)という。
生成AIの登場により、ロボットの歩行制御も簡単になりつつある。だが、高本氏は断言する。「AIを動かす“体”がなければ、意味がない。AIは言語のモデルだけでは成長できない。身体を通じて得た行動データこそが、次の進化の鍵だ」(高本氏)。
同氏は、これまでのAIブームが“脳”に偏りすぎていることに強い危機感を抱いており、「脳と身体の統合こそが次の革命」と語る。その“体”を作るために、今こそ本物の国産ヒューマノイドが必要だと主張した。
また高本氏は、技術のサプライチェーンにおいても中国が完全にリードしている現実を突きつけた。
「中国製モーターなしには、今や歩くヒューマノイドを作ることすら難しい。世界中の大学が安価な中国製ヒューマノイドを買い、AIの研究に使っている。このままだと、日本も“輸入してAIを載せるだけ”の国になる」(高本氏)
これはかつて日本が主導したドローン開発が、最終的に中国のDJIに市場を奪われた構図と同じだとし、「同じ失敗をまた繰り返すのか」(高本氏)と痛烈に問いかけた。
高本氏が描く未来像は、生活補助ロボットではない。「日本が本当に作るべきなのは、災害現場で人命を救うロボットだ」と断言する。
南海トラフ地震をはじめ大規模災害のリスクが高まる今、がれきの中に突入でき、人と一緒に作業できる“強靭な体”を持つヒューマノイドこそ、日本社会が切実に求めている存在だと語る。
家庭でコーヒーをいれるロボットではなく、がれきの下から人を助けられるロボットを日本から生み出す――その覚悟がにじみ出ていた。
高本氏は、全国に散らばる熟練のヒューマノイド開発者たちを「絶滅危惧種」と表現した。今、この技術を持った人材は日本に数十人しか残っておらず、1社では世界と戦えない。だからこそKyoHAを結成し、知恵と技術を結集する必要があると熱く語った。「われわれが今ここで立ち上がらなければ、10年後、日本はヒューマノイドを“買う側”になってしまう」と高本氏は言う。
それは、日本のヒューマノイド技術の尊厳を守るための強い決意表明にも聞こえた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.