サンアプロは、ガリウム系光酸発生剤を環境対応型材料として改めて位置付け、ラインアップを拡充したと発表した。
三洋化成工業の子会社であるサンアプロは2025年6月24日、オンラインで記者会見を開き、ガリウム(Ga)系光酸発生剤を環境対応型材料として改めて位置付け、ラインアップを拡充したと発表した。
光硬化技術は、紫外線などの光を照射することで、液体を固体に変える技術で、ディスプレイ、電子機器、半導体などの接着、コーティングといったさまざまな用途で利用されている。中でも重要な役割を担うのが、光の照射によって酸を発生させる光酸発生剤(Photo Acid generator:PAG)だ。
PAGは、光硬化性樹脂に対してはカチオン重合を引き起こす開始剤として反応を促進したり、フォトリソグラフィー用途では微細なパターン形成を可能にしたりなど、製品の品質や製造効率の向上に貢献する。
一方、近年は全ての産業において環境負荷低減や安全性の確保がより重要視されている。特に国際的な規制強化や企業の環境意識の高まりを背景に、ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)を含まない材料の活用が求められている。
PAGの多くは、光で分解して酸を発生させるイオン性PAGとして設計されており、カチオン(陽イオン)成分とアニオン(陰イオン)成分から成る塩(オニウム塩)構造を持つ。これまでアニオンには、アンチモン(Sb)系、ホウ素(B)系、リン(P)系などが使用されてきたが、中にはPFASを含有するものもあり、環境対応上の課題となっていた。
こうした背景から、PFASを含まず、かつ従来の高性能を維持できるPAG材料が求められている。
そこで、サンアプロはGa系PAGを環境対応型材料としてラインアップを拡充した。サンアプロ UX推進部 主任の田中貴博氏は「当社の光酸発生剤の市場シェアはおよそ10%だ。PFASフリーと高性能を両立するGa系PAGを環境対応型材料として展開することで、25%のシェアを目指す。ディスプレイ、電子機器、半導体のメーカーが多い中国、韓国、台湾をメインターゲットに展開するが、国内でも採用を目指して訴求する」と語った。
サンアプロのGa系PAGは、Gaを中心とするアニオン成分に、特徴あるカチオン成分を組み合わせた独自設計により、環境への配慮と高い性能を両立している他、業界で広く使用されてきた高性能なSb系光酸発生剤と同等以上の性能を実現しながら、SbやPFASを含まない。
具体的には、これまで蓄積してきた分子設計や合成技術の知見を生かし、光照射時の酸発生挙動や熱的/化学的安定性などの重要特性を分子レベルで精密に制御して、高性能と環境適合性のバランスを実現した。
さらに、光を照射した際の酸発生量(感度)および発生した酸の反応性(活性)が高く、Sb系PAGと同等以上の優れたUV硬化性を発揮する。これにより、硬化時間の短縮や製品の製造効率向上に役立つ。
Ga系PAGで硬化後の樹脂は高い透明性を保ち、高温下でも黄変しにくい特性を持つため、ディスプレイや電子機器など、外観品質や光学特性が重視される製品への適用に適している。
Sbを含まず、劇物に該当しないため、取り扱いや保管も容易だ。PFASを一切含まない設計は、環境規制の厳格化や安全性への要求の高まりに対応する材料として注目されている。
サンアプロは今回の材料に対して、PAG/水=1/25、160℃×3日の条件で、耐湿性を評価する加速寿命試験であるPCT試験(プレッシャークッカー試験)を実施した。その後、イオンクロマトグラフィーでフッ化水素を計測したところ、今回の材料が硬化やパターン形成工程中にフッ化水素を副生しないため、基板や金属配線の腐食リスクを減らせることが分かった。これにより、高い絶縁性や信頼性が求められる電子部品製造でも、安全性と安定性を両立する。
従来のSb系を含む多くのPAGは、使用時に有機溶媒や光硬化性樹脂への溶解性が課題となる場合があったが、サンアプロのGa系PAGは、さまざまな有機溶媒や光硬化性樹脂に高い溶解性を示し、処方設計の自由度を高められる。
また、同社では加熱によって酸を発生する熱酸発生剤についても、PFASフリー対応を進めており、Gaをアニオン成分に用いた熱酸発生剤を開発中だ。これらはPAG同様に、高い透明性、耐熱黄変性に加え、Sbフリー、PFASフリー、フッ化水素の副生なし、溶媒/樹脂への高い溶解性といった特徴を備え、さまざまな用途での活用が見込まれている。サンアプロ 未来マテリアル研究部 部長の柴垣智幸氏は「加熱によって酸を発生する熱酸発生剤については開発自体はほとんど完了している。導入先が決まり、そのパートナー企業とともに量産プロセスが構築されれば正式販売となる見通しだ」と話す。
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