ただし、2024年8月に買収を完了したアルティウム(Altium)の電子機器設計/ライフサイクルマネジメントプラットフォームをベースに、組み込みシステム開発を効率化する「Renesas 365」などの展開は加速させる。また、Renesas 365は、足元で続いている同社のマイコン世界シェアの低下を押し止め、再び取り戻すための仕掛けとしても期待されている。2035年には、これらデジタルソリューションによる売上高を全社の10〜15%にまで拡大する方針である。
2024年のルネサスの連結業績では、売上高が2年連続で減少しているものの売上高利益率は55%で事業モデルの目標を維持している。これは在庫調整とファブライト戦略の推進によるところが大きい。その一方で、研究開発費率(R&D)が事業モデルの16%から19%に高止まりしており、営業利益率が27%と事業モデルの30%を下回る原因になっていた。
新たな事業モデルでは、営業利益率目標を25〜30%と幅を持たせることによって、柴田氏が述べた通り研究開発に投資する余地が生まれる。研究開発費率は従来の16%に対して18〜22%に積み増す。なお、ルネサスはEV(電気自動車)向けを中心に製品開発を進めてきたSiC(シリコンカーバイド)デバイスやIGBTなどのパワー半導体の事業展開を延期する方針を明らかにしている。これによって工場への投資が抑えられているため、研究開発費にリソースを投入する余地が生まれている。
柴田氏は、付け焼刃ではない本腰を入れて研究開発を進める対象として、車載ではRISC-Vとソフトウェア、パワー半導体ではGaN(窒化ガリウム)とモジュール、先述したRenesas 365とアルティウムなどを挙げた。「AI(人工知能)などに関するR&DのRの部分についても、時間軸を長めに設定して手厚く配分する。半導体設計のメソドロジーについてもAIの力を活用したモダンなものに変えていく」(柴田氏)という。
柴田氏は「ハードウェアに磨きをかけていくと同時に、それを多くの人に使いやすいものにしていく必要がある。その結果として、顧客やそのさらなる先の顧客がよりよい生活を送れる製品やサービスを開発できるようにしたいという企業としての目標に変わりはない。いったん踊り場を通るものの、将来にわたる成長を確実にしていきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.