本連載では、産業用ネットワークのオープン化にまつわる歴史について紹介します。今回は、産業用ネットワークのオープン化の現状と今後について考えます。
前回、HMSインダストリアルネットワークスが2015年に発表した産業用ネットワークの市場シェアのグラフを掲載しました。同社は毎年、産業用ネットワークの市場シェアを発表しています。現時点での最新版は、2025年5月に発表されたデータとなります(表1)。
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2025年の市場シェアと、前回掲載した2015年の市場シェアとの大きな違いは以下の通りです。
HMSインダストリアルネットワークスはスウェーデンの企業であり、彼らの発表したデータが世界のファクトリーオートメーションの産業用ネットワーク市場をそのまま表しているかは、ある程度、差し引いて評価する必要があるかもしれません。
また、この調査の対象はファクトリーオートメーションの産業用ネットワーク分野で、プロセスオートメーションは含まれていません。
それでも、約10年間でフィールドバス(RS485ベース)のシェアと産業用イーサネットのシェアが逆転し、産業用ネットワークの市場では産業用イーサネットが主流になっている結果は、筆者の感覚と一致します。
フィールドバスの多くは電気的仕様としてRS-485を採用しています。RS-485はラインに複数機器が接続可能であり、速度も最大10Mbps、距離は最大1200m、差動伝送でノイズに強いということで、製造現場のネットワークの物理層の規格として多く採用されました。
実は1980〜90年代に筆者が産業用ネットワークのプロモーションをしていた時に、「産業用ネットワークにイーサネットは使えないか」との問いかけを受けることがありました。当時、私を含めて、多くの方が次の理由から、イーサネットを産業用ネットワークとして採用するのは否定的でした。
ところが、2000年代に入ると、産業用ネットワークの物理層にイーサネットを採用することが一般的になりました。
実際に工場現場で産業用イーサネットを使ってみると、多くの工場現場ではシールド付きのイーサネットケーブルを使えば、産業用ネットワークとして十分信頼性を持って動作ができることが分かりました。
むしろ、RS485の接続形態であるバス形式が芋づる式(daisy chain)であったため、1カ所の物理的トラブルがネットワークの別の場所に影響を与えることが多いのに比べて、イーサネットはポートのpoint-to-pintの接続になるので、反射波の影響もなく、通信の電気仕様が安定しているのです。
本連載では「産業用ネットワークのオープン化」について説明しています。このようなフィールドバスから産業用イーサネットへの移行の傾向を見ながら、産業用ネットワークの「オープン化」が現状どこまで進んでいるかについて考えてみます。
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