産業用ネットワークのオープン化の現状と今後産業用ネットワークのオープン化の歴史(5)(1/3 ページ)

本連載では、産業用ネットワークのオープン化にまつわる歴史について紹介します。今回は、産業用ネットワークのオープン化の現状と今後について考えます。

» 2025年06月10日 07時00分 公開

 前回、HMSインダストリアルネットワークスが2015年に発表した産業用ネットワークの市場シェアのグラフを掲載しました。同社は毎年、産業用ネットワークの市場シェアを発表しています。現時点での最新版は、2025年5月に発表されたデータとなります(表1)。

2025年の産業用ネットワークの市場シェア 2025年の産業用ネットワークの市場シェア[クリックで拡大]出所:HMSインダストリアルネットワークス

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 2025年の市場シェアと、前回掲載した2015年の市場シェアとの大きな違いは以下の通りです。

  • 2015年はフィールドバスが66%で産業用イーサネットがその約半分の34%のシェアでした。2025年はフィールドバスが17%、産業用イーサネットが76%、さらに2015年にはなかったWireless(無線)が7%のシェアとなっています。
    つまり、フィールドバスと産業用イーサネットの市場シェアが完全に逆転しています
  • 2025年の産業用ネットワークの成長率は7.7%と期待されています。この時、産業用イーサネットの成長率は15%が期待されている一方で、フィールドバスはマイナス成長の予測となっています。
    つまり、産業用ネットワークのマーケットで産業用イーサネットの比重はより大きくなると予想されています。しかし、産業用イーサネットもフィールドバスも、2015年と比べると成長率の予想は低くなっています
  • 2015年には産業用イーサネットの中でPROFINETとEtherNet/IPのシェアが8%、EtherCATのシェアが5%であり、その他のModbus TCP、PowerLink、SERCOS IIIのシェアは3%以下でした。
    2025年には2015年には見られなかったCC-Link IEがカウントされていますが、PROFINET、EtherNet/IP、EtherCATの3つのプロトコルのシェアが他の産業用イーサネットに比べて大きく増えています

 HMSインダストリアルネットワークスはスウェーデンの企業であり、彼らの発表したデータが世界のファクトリーオートメーションの産業用ネットワーク市場をそのまま表しているかは、ある程度、差し引いて評価する必要があるかもしれません。

 また、この調査の対象はファクトリーオートメーションの産業用ネットワーク分野で、プロセスオートメーションは含まれていません。

 それでも、約10年間でフィールドバス(RS485ベース)のシェアと産業用イーサネットのシェアが逆転し、産業用ネットワークの市場では産業用イーサネットが主流になっている結果は、筆者の感覚と一致します。

 フィールドバスの多くは電気的仕様としてRS-485を採用しています。RS-485はラインに複数機器が接続可能であり、速度も最大10Mbps、距離は最大1200m、差動伝送でノイズに強いということで、製造現場のネットワークの物理層の規格として多く採用されました。

 実は1980〜90年代に筆者が産業用ネットワークのプロモーションをしていた時に、「産業用ネットワークにイーサネットは使えないか」との問いかけを受けることがありました。当時、私を含めて、多くの方が次の理由から、イーサネットを産業用ネットワークとして採用するのは否定的でした。

  • イーサネットの速度は速いが、機器間の距離が最大100mという制限がある
  • 工場現場ではノイズを発生する機器が多く、イーサネットはその影響を受けやすい

 ところが、2000年代に入ると、産業用ネットワークの物理層にイーサネットを採用することが一般的になりました。

 実際に工場現場で産業用イーサネットを使ってみると、多くの工場現場ではシールド付きのイーサネットケーブルを使えば、産業用ネットワークとして十分信頼性を持って動作ができることが分かりました。

 むしろ、RS485の接続形態であるバス形式が芋づる式(daisy chain)であったため、1カ所の物理的トラブルがネットワークの別の場所に影響を与えることが多いのに比べて、イーサネットはポートのpoint-to-pintの接続になるので、反射波の影響もなく、通信の電気仕様が安定しているのです。

 本連載では「産業用ネットワークのオープン化」について説明しています。このようなフィールドバスから産業用イーサネットへの移行の傾向を見ながら、産業用ネットワークの「オープン化」が現状どこまで進んでいるかについて考えてみます。

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