詳しい先輩はいなくなる デジタル技術伝承に向けたアプローチとは設備保全DXの現状と課題(2)(3/4 ページ)

» 2025年06月04日 07時00分 公開

製造DXを阻害する要因と克服に向けたアプローチ

 製造業のDX推進を阻害する主な要因はいくつか挙げられます。これらは大規模なIT化を伴うDXとは傾向が少し異なり、設備保全DXはいくつかの特徴があります。

従来のやり方が障壁

 経済産業省が提示する「2025年の崖」では、既存のレガシーシステムのブラックボックス化が課題の1つとされています。

 一方、設備に関する業務ではシステムではなく、紙やExcelでの記録が主となっています。また、その業務の進め方もアナログである、といえるのではないでしょうか。典型的な例として、紙での保管、承認のハンコなどが挙げられます。

人材不足とスキルギャップ

 DX推進に必要なスキルを持った人材が不足しているため、デジタル化の取り組み自体が進みにくくなります。DXの推進には経営視点での投資判断、IT視点でのデジタル活用能力、そしてそれらの投資コストとデジタル技術を現場の業務上で最適化する力が求められます。

 また、今の仕事のやり方をIT化するのではなく、より短い手順、より速い手順、インパクトの高い仕事に集中する視点も必要です。

組織文化の抵抗と経営のコミット不足

 長年の伝統に基づく企業文化や、変革に対する心理的な抵抗感が、DXや技術伝承のデジタル化を阻害します。また、経営層による具体的なビジョンの欠如や、適切な予算、リソースの不足も大きな障壁となります。

阻害要因の克服に向けた戦略

これらの阻害要因を乗り越えるためには、以下のような戦略を採用することが有効です。

共通言語としてのデジタル一元化

 膨大な記録の中から、必要なときに、素早く探し出せる情報の整理がデジタル化の第一歩です。

 自分のデスクトップや一部のメンバーだけが見られるフォルダではなく、なるべく関係者全員が参照可能な場所に同じ共通言語でデータを保管するようにします。記録の方式もそろえていきます。

 例えば、時間の記録をYYYY/MM/DD HH:MMの書式で統一する、スペースと英数字は半角に統一する、各データの1つ目、1行目にサンプルを用意しておき、個々人の感覚でバラバラな記載にならないように統一していきます。

「時間」で比較する

 改善する前と後で、生産性を比較できることが重要です。

 例えば点検記録や修理記録において、これまでの設備管理記録で日時を記載していなかった場合は、開始と終了の日時を記録することで比較しやすくなり、情報価値が飛躍的に高まります。

 下記の図は、ある企業が設備故障による停止時間を一定の期間ごとに合算したグラフのサンプルです。まず総合計時間の差を比較できるようになること、次のステップとしてどのプロセスが停止時間の圧縮に貢献したかを分解することに挑戦する……というように、段階的にデータの活用とリテラシーを深めていくことがお勧めです。

設備故障に関連する停止時間の比較例 設備故障に関連する停止時間の比較例[クリックで拡大]出所:八千代ソリューションズ

トップマネジメントによるコミット

 経営層がDXやデジタル技術伝承の重要性を認識していることを表明することが重要です。DXの成功は可処分時間を創出し、修理部品の在庫のムダなどを削減します。その結果として、経営視点におけるコスト削減などの課題解決の一助となります。

 最近ではAIやアジャイルなどのキーワードが飛び交っており、非常に高度な対策を求められるようにも見えますが、道具の基本的な使い方に変化はないと考えることもできます。より短い時間で、より高い成果を創出するために、相対的に効率の低い時間を圧縮することを繰り返します。

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