モビリティカンパニーへの変革に向けては、その道筋の基礎となる「Toyota Mobility Concept」において、さまざまなパワートレインでカーボンニュートラルに対応する「マルチパスウェイ」の解像度を高め、トヨタらしいSDV(ソフトウェアデファインドビークル)の基盤整備に取り組む方針である。
マルチパスウェイでは、多様なクルマでCO2削減に貢献しながら、次世代BEVで磨く技術を生かしてパワートレイン全体のさらなる進化につなげていくことが基本戦略となる。佐藤氏は「それぞれのパワートレインを真の選択肢とするために、多くの仲間とともに燃料やインフラの進化を後押しする取り組みを進めていく」と説明する。特に、保有車のカーボンニュートラルという観点では、環境性能の高いクルマへの代替の促進だけでなく、カーボンニュートラル燃料の普及を加速させることが重要だとしている。「世界各地の顧客に向き合って、より良品廉価なHEVをはじめカーボンニュートラルに貢献するプラクティカル(実用的)な選択肢をお届けする」(佐藤氏)。
中国自動車メーカーなどが先行するBEVについては、車両や電池の技術革新に加えて、電池の材料調達から回収、リユースまでエコシステムの構築が重要であることを訴えた。FCEV(燃料電池車)や水素エンジンなどの水素モビリティでは、水素価格の低減が普及の鍵を握るとし、燃料電池システムをはじめとするユニット販売を含めて商用車から社会実装を進めて水素使用料を増やし、コストの低減とインフラの拡充につなげていく方針である。
SDVでは、電子プラットフォームの刷新やソフトウェアプラットフォーム「arene(アリーン)」を通じてクルマの拡張性を高めていくことに注力する。高いソフトウェア処理性能を持つSoCの開発に加え、切れ目のない通信環境やデーセンターなどインフラの整備が重要になってくる。2024年11月に発表したNTTとの合意により、データに基づく車両開発やサービスの進化、顧客とともに育つAI(人工知能)エージェント、車載センサーを活用したサービスなど「データとAIが生み出すSDVの多様な価値を具体化させていく」(佐藤氏)としている。
質疑応答ではトランプ政権による相互関税への対応に関する質問が集中した。佐藤氏は「政府間交渉などで尽力いただいているところで関税の詳細はまだ流動的であり先を見通すのは難しい。ただし、足元で既に影響が出ている分については2025年度の見通しに含めた。一番大事なのは、軸をぶらさずに、じたばたせず、しっかりと地に足を着けて、やれることをやっていくことだ。短期では米国に輸出している年間50万台分については仕向地の調整などが必要だろうし、中長期では現地の顧客に適した商品を現地で開発して現地で生産していくという『町いちばん』の取り組みを進めることが重要になってくる」と語る。
宮崎氏は「米国市場での引き合いは強く、在庫日数は10日を切るレベル、主力のHEVは5日程度となっており、実需を見ながら調整できるとみている。価格は基本的に顧客が決めるものだが、競合や実需の状況を見ながら、需要が強くて顧客が『もっと高くてもいいのでは』と言っていただけるものは値上げをするなど、的確なタイミングで適切に対応していきたい」としている。
なお、2025年度の連結業績見通しで宮崎氏が語っている通り、トヨタ自動車は自動車1台当たりの限界利益を約1.6倍に向上しており、25%の相互関税が発動したとしても十分に吸収できる余力がある。この余力を基に、先が見通せない状況でも「軸をぶらさずに、じたばたせず、しっかりと地に足を着けて、やれることをやっていく」というのが足元での米国市場への対応となるもようだ。
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