CFP算定については、経済産業省がガイドラインを公表しています。企業がCFP算定に取り組む上で重要なポイントは、この業務を効率よく、かつ精緻に実施することです。既にCFPに取り組む企業の多くが何らかの算定ツールを導入しています。
ガイドラインには沿いつつもシステム化せずに手作業で集計している企業もありますが、かなりの負担になっていると推測されます。製造機械の稼働時間やエネルギー消費量、原材料投入量などといった細かな製造実績データとCO2排出量に関するデータを突き合わせ、手作業で算定するには慣れや知識が必要です。貴重な現場従業員の工数をそこに割くべきではありません。
しかも、こうしたお手製の算定方法では、工場単位といった大ざっぱな範囲までが対応できる限界でしょう。製品1つ当たりの細かな算定はまず不可能です。CFPを正確に算定するためは、自動的に精緻な算定が完了するITシステムを活用することが望ましいと言えます。
前回、単独でERPが導入できない中小企業のための「相乗り型ERP」として共通業務プラットフォーム「Connected Manufacturing Enterprises(CMEs:シーエムイーズ)」を紹介しましたが、このCMEsが採用しているERP「SAP S/4HANA」には、製品のCO2排出量を計算できるツール「SAP Sustainability Footprint Management(SAP SFM)」が組み込まれています。このツールの特徴は、製品1つ当たりのCO2排出量を細かく把握できる点にあります。ERPで、製品生産にかかる機械の細かな稼働時間や原材料の投入量などがデータ化されているからこそ、製造指図書に記載されている指示、1つ1つの単位まで掘り下げてCO2排出量の算出が可能になるのです。
メーカーが部品の調達を検討していて、似たような製品を扱うサプライヤーが複数あるとき、CO2排出量をg単位で証明でき、しかもわずかなCO2しか排出していないと知れば、その製品の競争優位性は圧倒的に高まります。中小製造業は、自社の営業戦略として積極的にCFP算定に取り組むことが重要です。CMEsはその実現を効率的に支援します。
CMEsを通じてSAP SFMを活用している事例として、福島県の精密機械部品加工、マツモトプレシジョンが挙げられます。マツモトプレシジョンは、SAP S/4HANAに格納している製品別製造実績情報を基にして、CO2排出量の計算をシステム化しました。同社では再生可能エネルギーを積極的に利用するなど自社製品の環境価値と経済価値の両立に取り組んでおり、CFP対策も製品の付加価値を高めて競争力向上に貢献するものとして評価しています。
次回は本連載の最終回として、ERPを活用して全体最適を実現した複数の中小製造業が地域内で連携することによって可能になる新たな価値について検討していきます。具体例として宮城県で進行中の「製造業デジタルインフラ みやぎモデル」について解説します。(次回に続く)
相川 英一(あいかわ えいいち)
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 マネジング・ディレクター。インテリジェント ソフトウェアエンジニアリング サービスグループ兼アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター統括。主に自動車や機械製造、物流、小売といった製造・流通業のSI開発やシステム刷新、合併・統合など大規模プログラムでプロジェクトマネジメントを担当する。特に自動車業界向けのコネクティッド領域など先進技術を活用した案件を得意領域とする。
佐々木 学(ささき まなぶ)
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 アソシエイト・ディレクター。2008年アクセンチュアへ入社し、一貫して大手製造企業の基幹業務改革・システム構築プロジェクトに従事。企画から構築・運用まで幅広い経験を有し、構築に携わったプロジェクトはすべて稼働のうえ安定化までやり遂げている。2019年から中小製造業の面的生産性向上プロジェクトであるCMEsを立ち上げ、全体リードを務める。
鈴木 鉄平(すずき てっぺい)
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 シニア・マネジャー。アクセンチュア・イノベーションセンター福島、アクセンチュア・アドバンスト・テクノロジーセンター仙台。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。日系、外資系コンサルティングファームを経て2018年アクセンチュア入社。2020年東京から出身地の仙台にUターン移住。以後CMEsプロジェクトに従事、全国の中小製造業経営者への普及啓発リードを務める。
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