鴻海のEVは「レファレンスデザイン」、自社ブランドでは販売せず電動化(2/3 ページ)

» 2025年04月10日 10時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 鴻海にとってEVは、「3+3」という事業戦略での次世代に向けた成長の柱の1つ。EVやデジタルヘルス、ロボティクスという3つの産業と、AI(人工知能)や半導体、次世代通信技術といった3つの技術で「3+3」だ。3+3は、コロナ禍の前に売上高が伸び悩む時期が続いたため策定した。

 関氏はGDPや人口統計などのデータを引用しながら台湾について紹介した。名目GDP(国内総生産)では台湾は日本の5分の1にとどまるが、1人当たりの名目GDPで比較すると同格だ(台湾の人口は2300万人で、日本の5分の1)。全産業に占める第2次産業(製造業や建設業、鉱業など)の比率は米国が20%、ドイツが30%、日本が25%だが、台湾は鴻海やTSMCなどがけん引して37%となっている。

 日本の大学進学率が57.7%であるのに対し、台湾の大学進学率は84.2%と高く、修士課程や博士課程への進学も多いという。台湾も日本と同様に少子化が進んでいるが、第2次産業の強さや大卒の多さが武器になっている。また、台湾の文化は「中国のスピード、日本の信頼性、米国のイノベーションをバランスよく取り込んでいる。単にスピード重視であるだけでなく、日本の慎重さを理解し共感できる国だ。小さな国ではなく、日本が見習うところがたくさんある」(関氏)という。

日本と台湾のGDP比較[クリックで拡大] 出所:鴻海精密工業

鴻海はEVのB2Cのビジネスには価値を見いだしていない

 鴻海はCMS(Contracted Manufacturing Service)とCDMS(Contracted Design&Manufacturing Service)の2つでEVを生産する。CMSは鴻海が製造のみを請け負うが、CDMSは製造だけでなく設計も引き受ける。生産までは行うが、鴻海ブランドとして消費者にEVを販売することは眼中にないという。

 鴻海はEVのB2Cのビジネスには価値を見いだしていない。電子機器受託製造での世界市場シェアは46.1%で、規模を追うことが鴻海のポリシーだからだ。EVに関しては、CDMS向けにさまざまなセグメントや車両タイプのモデルをレファレンスデザイン(参照設計)として用意し、それを自社ブランドで販売する自動車メーカーや企業を増やしていくことでスケールメリットを創出する。

高価格帯EV向けのCMS、普及価格帯や商用車向けのCDMS[クリックで拡大] 出所:鴻海精密工業

 「電子機器受託製造でのシェアが鴻海の根底にある成功体験だ。規模があれば鴻海の真骨頂を発揮できる。AIサーバでも44〜45%のシェアを獲得した。EVに関しても同じように強みを出したい。鴻海ブランドで新車の小売りを今から始めてもシェアはせいぜい数パーセントで、電子機器受託製造の規模には全く及ばない。長い時間がかかるかもしれないが、EVでも40%以上のシェアを取っていく上で自社のブランドは出さない」(関氏)

 関氏は、鴻海の本領は製造のみを請け負うCMSであり、設計まで手掛けるCDMSは本業ではないと説明した。CDMS向けにさまざまなモデルを用意しているのは、鴻海が自動車を設計/製造できることを示すデモンストレーションという位置付けでもある。「自動車業界はなかなか用心深い。ある程度世の中に広まっていかないと信用してもらえない」と関氏はデモンストレーションの重要性を述べた。

CDMSで展開するさまざまなモデル

 鴻海がCDMSで手掛けたEVはすでに市販されている。CセグメントのSUVタイプのEVで、鴻海としては「モデルC」と呼んでいる。台湾の裕隆汽車製造が展開するブランドLUXGEN(ラクスジェン)で「n7」として発売した。裕隆汽車製造は、鴻海傘下のEV会社Foxtron(鴻華先進科技)に出資している企業でもある。

 Cセグメントは、グローバルで自動車メーカー各社が主力商品を展開する領域だ。鴻海もCセグメントのEVはレファレンスデザインの引き合いが強い領域だと期待を寄せる。モデルCをベースにした商品は、2025年後半に米国でも販売される。米国での展開に当たって取引先からデザインの微調整の要望があり、迅速に応じたとしている。

 単にCセグメントのサイズのEVであるだけでなく、ハイパワーの駆動用モーターを採用したり、ホイールベースを長く確保して車内空間の使い勝手を高めたりすることで個性も持たせた。LUXGENブランドは2024年のアジアクロスカントリーラリーにモデルCで出場し、2000km以上を走破するなど、タフさもアピールしている。

モデルC[クリックで拡大] 出所:鴻海精密工業
北米向けはデザインを微修正(左)。室内空間の広さが強み(右)[クリックで拡大] 出所:鴻海精密工業

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