SDV時代のゾーンECUには何が求められるか、NXPがMCUを発表車載半導体(1/3 ページ)

NXP SemiconductorsはSDV向けにE/Eアーキテクチャを進化させる車載マイクロコントローラー「S32K5」を発表した。

» 2025年03月17日 15時30分 公開
[齊藤由希MONOist]

 NXP Semiconductorsは2025年3月13日、SDV(ソフトウェアデファインドビークル)向けにE/E(電気電子)アーキテクチャを進化させる車載マイクロコントローラー(MCU)「S32K5」を発表した。MRAM(磁気抵抗メモリ)を内蔵した16nm FinFETプロセスを採用し、ゾーンアーキテクチャやX-in 1の電動システムなどの統合化に貢献するとしている。2025年第3四半期に主要顧客向けのサンプルの出荷を開始する。

ゾーンECU対応のMCU

 S32K5は、NXPが展開するS32プラットフォームのラインアップの1つ。S32Kから上位のS32Nまで、処理性能に差をつけている。処理性能が高いS32NやS32Gはセントラルゲートウェイに対応する製品だ。S32EやS32Zはドメイン型を対象としている。S32MやS32Kはアクチュエーター用という位置付けだが、今回発表したS32K5はE/Eアーキテクチャの1つである「ゾーンアーキテクチャ」で使用するゾーンECU(電子制御ユニット)を想定している。

S32シリーズのラインアップとCoreRideプラットフォーム[クリックで拡大] 出所:NXP

 「S32プラットフォームはいずれもArmコアを搭載し、ソフトウェアのスケーラビリティや共通のペリフェラルやセキュリティエンジンを搭載している。処理性能は違うが基本的にはできることが同じ」(NXP オートモーティブ営業統括本部 統括本部長の山本尚氏)。また、S32K5と、S32Zより上位の商品は共通のネットワークアクセラレーターを採用している。パワーマネジメントも共通の機構を搭載しており、ソフトウェア開発のIPを共有できる。

 S32プラットフォームは、「CoreRideプラットフォーム」と併せて提供している。CoreRideプラットフォームでは、ソフトウェアベンダーと協力して、マイコンとOS、ミドルウェアを一気通貫で提供する。NXPが中心になることで、製品のチューニングなどマイコンの性能を最大限に引き出すソフトウェアの実装を実現する。自動車メーカーやティア1サプライヤーはその上位のアプリケーションの開発に集中できる。S32K5も同様にCoreRideプラットフォームを通じて拡張することが可能だ。

ゾーンECUに求められる機能

 自動車メーカーは、機能ごとにECUが分散した複雑な従来のE/Eアーキテクチャから、より整理されたゾーンアーキテクチャへの移行を目指している。自動車メーカーや地域によってゾーン分けの考え方はさまざまだが、ゾーンアーキテクチャには共通の課題があるとNXPはみている。具体的には、ワークロードの多様性や重要度の混在、通信の遅延への対策、セキュリティや保守、そしてソフトウェアの増加などだ。

 NXPは、これらの課題に対応しながらゾーンアーキテクチャの基盤になるのがリアルタイム性と低遅延性を併せ持つS32K5だと位置付けている。ワークロードの多様性には、さまざまなプロセッサを搭載することで対応する。

 S32K5はハイエンドのモデルの場合、800MHzで動作するArmのCortex M7をメインの制御用に搭載し、性能が求められる機能の拡張演算向けにArmのCortex R52を、ボディー系のローパワーの制御向けにArmのCortex M4を搭載する。S32K5の使い方に合わせてプロセッサのリソースも使い分けられる。

S32K5のアーキテクチャ[クリックで拡大] 出所:NXP

 また、AI(人工知能)処理や、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)処理向けにそれぞれアクセラレーターも搭載した。機械学習アクセラレーター専用のeIQ Neutronニューラルプロセッシングユニットにより、車両のエッジで機械学習アルゴリズムを使用した電力効率の高いリアルタイムのセンサーデータ処理が実現する。イーサネットやCANのアクセラレーターも搭載しており、高速なルーティングが可能だとしている。

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