ドライバーレスの自動運転車によるモビリティサービスの実用化に、日産は3つのフェーズに分けて取り組む。2025〜2026年度は自動運転の利用に向けた機運を一般に広く醸成するフェーズ1だ。一定の規模で継続的に自動運転車を走らせて、多くの人に乗ってもらうことで認知度を高めていく。2027〜2028年度はフェーズ2で、自動運転車を走らせる地域を拡大し、受容性向上を目指す。2029〜2030年度は、自動運転サービスを定着させ、街/町の価値向上につなげていくフェーズ3だ。
ただ、ゼネラルモーターズ(GM)傘下のクルーズがロボタクシー事業への投資を終了するなど、自動運転車による移動サービスは投資の負担が大きい。GMは。ロボタクシー事業の維持と成長には、それまでに投じた100億ドルを超えるさらなる投資と長い期間が必要になると試算し、手を引くことを決めた。中国のバイドゥや米国のアルファベット傘下のウェイモなどもロボタクシー事業を展開しているが赤字は長期にわたり、収益性の確保に苦労している。
ライバルたちが苦戦するで中、日本でのドライバーレスの自動運転サービスに勝ち筋はあるのか。総合研究所の木村氏と日産自動車 経営戦略本部 コーポレートビジネス開発部 主管の渡辺純氏は、「単純に既存の公共交通から置き換えたり、運転席が無人になったりするだけではビジネスとしての成立は難しい」という。公共交通事業者は、赤字でも維持する路線と利用者が多い黒字路線の両方を抱えながら運営しており、それでも全体の収支が厳しい企業もあるほどだ。
「われわれの中で自動運転サービスの運用コストを試算していて、関係省庁や自治体など関係者を含めた議論の中で、どこにコストがかかっていて、あるコストを減らすために誰の協力を仰ぎたいか、話し始めている。コストのサイズ感を可視化し、減らすための議論に着手できるのは重要なことだ。例えば、遠隔監視室で1人で数台しか見れない状態ではわれわれの計算でも赤字になる。黒字にするには1人で10台、20台と見る必要がある。われわれの努力と、法律や社会情勢の変化によって描いている形が実現できれば、初期投資である車両開発費などのコストは大きな問題ではあるが、運用コストを賄える手応えはある」(渡辺氏)
“描いている形”の1つが、遠隔監視センターのプラットフォーム化だ。「バス会社やタクシー会社に自動運転車と遠隔監視センターをセットで売り込んでいくと、そのセットを各地につくっていくことになり、コストは莫大だ。全国の移動サービスが共通で使えるプラットフォームがあればコストを下げられるのではないか。遠隔監視センターも、事業者それぞれが持つのではなく全国で使うプラットフォームにしたい。5人が監視する自動運転車が100台と1000台ではコスト面で大きく違ってくる」(渡辺氏)
みなとみらい地区で20台の実証を行うのは、全国規模の共通プラットフォームの実現に向けた第一歩となる。「システムの高度化や運営コストを安くするためのマニュアル作りなど、他の地域に横展開できるベースとなるモデルをきちんと作っていく。その横展開では遠隔監視センターを1拠点に集約することも視野に入れて進める。フェーズ2の地域拡大では、これらのモデルを必ず持っていく。プラットフォームづくりはわれわれの不得意な部分もあるので、専門的なパートナーと準備を進めている」(渡辺氏)
木村氏は「米国のロボタクシーの取り組みは、どんなところでも走るようなサービスを目指している。そのため投資もかなり大きくなっているが、米国の環境では合理的な交通手段なのではないか。日本では、日本に必要な交通手段を考えていく必要がある。公共交通がどのようなものかを考え、運賃収入とそれ以外の収益も含めてどのように採算を成立させられるか、考えていきたい」と述べた。
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