日産の実験車両の助手席には保安要員が乗車するが、遠隔操作者の補助という位置付けだ。危険な状況を判断して緊急時に非常停止スイッチを押すのが主な役割だ(非常停止スイッチを押した後は手動運転で移動する必要があり、保安要員はそのドライバーも務める)。
保安要員が非常停止スイッチを押したのは、みなとみらい地区の同じルートを70回ほど走った中で2回(走行は平日のみ)。周囲の車両が不規則に急な行動をとり保安要員が危険だと判断したためで、実験車両の異常ではない。
非常停止スイッチを押した場合、その場面や実験車両のシステムの作動状況を後で解析して確認するという。非常停止スイッチが押されたケースは、解析の結果、システム側でも当該車両と実験車両の接触の危険を認識できており、保安要員が非常停止スイッチを押さなくても減速して回避できたことが分かっている。
なお、2026年度にかけて実施する大規模なサービス実証は、助手席に保安要員が、運転席にセーフティードライバーが乗車した状態で行うが、運転席が無人の場合と同じ機能の車両で走行する。
遠隔操作室とは別に、監視室も設けてドライバーレスの実証を行った。監視室では、今後のモビリティサービスとしての提供を想定した運行管理システムと、自動運転システムの動作状態を監視する管制システムを取り扱う。運行管理システムでは、予約状況の管理や、車内との通話やサポートなど見守りを行う。
管制システムでは、実験車両に搭載したセンサーの検知結果、物体との距離や位置関係の安全度合いの判断結果などをリアルタイムに把握する。それに加えて、自動運転システムに対する遠隔アシストも行う。
実際に実験車両に乗車した際にも遠隔アシストで走行を助けるシーンがあった。信号のある交差点を左折する場面で、先にタクシーが左折していた(左折可能なレーンは1車線のみ)。タクシーは客を降ろすためなのか、交差点の端から5m以内=横断歩道を超えてすぐ停止した。それに続いて実験車両も停止。タクシーが動かないまま、信号が青から黄色、赤になった。
このとき、実験車両のシステムではタクシーが停止した理由を判断することが困難だった。人間から見れば、タクシーが交通違反をしており、その先が渋滞しているわけではないので、タクシーをよけて左折すればよいと判断できる。実験車両のシステムもタクシーをよけて左折するルートを候補に出していたが、タクシーの先が渋滞して詰まっている可能性を否定できず判断に迷ったようだ。
そうした実験車両の状態や周辺の様子を管制システムでも把握しており、タクシーをよけて左折するよう実験車両に指示を出した。実験車両はそのアシストを受けて自動運転を継続した(遠隔操作室からの操作介入はなかった)。
遠隔操作室/遠隔監視室と実験車両はLTE通信で接続している。安定した通信を確保するため、NTTドコモ、au、ソフトバンクのsimを同時に使用し、場所によって最も通信が強い回線に切り替えながら走行する。遠隔操作室は、警察との取り決めで遠隔監視室よりも低遅延性が重視されるため、速度保証付きのLTE通信を採用しているという。ローカル5Gも検討したが、メンテナンスなどランニングコストの高さを考えて採用を見送った。
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