三菱電機が環境向け研究開発を披露 ノウハウなしで静電選別が行える検証機とは?材料技術(3/4 ページ)

» 2025年03月05日 06時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

スマート静電選別の検証機の開発背景と概要

 使用済みの家電機器や車で使用されているプラスチック片をリサイクルするには、破砕しプラスチックを種類ごとに高度に選別する必要がある。

 三菱電機では使用済み家電機器のリサイクルを2010年にスタート。現在は使用済み家電機器のリサイクルで培ってきた選別技術を他の業界で展開するために事業化(RaaS:Recycle as a Service)も検討している。選別技術には比重選別、静電選別、X線選別、光学選別の技術がある。中でも、同社が最も得意とするのが静電選別技術で、静電選別技術の特許保有数は世界1位だ(同社調べ)。

 静電選別は、摩擦によりプラスチックに静電気を与えた後、+電極と-電極の高圧電界を通過させることで、摩擦帯電序列に従って選別する。例えば、一般的な静電選別装置の場合、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂(ABS)とポリスチレン(PS)のプラスチック片が混合したものを帯電筒(摩擦帯電部)に投入し、帯電筒の回転によりプラスチック同士を擦り合わせて摩擦帯電を起こす。その際に摩擦帯電序列に従い、ABSは+に、PSは-に帯電する。帯電したABSとPSのプラスチック片は+電極と-電極の間に発生させた高圧電界を通すことで、+に帯電したABSは-電極に、-に帯電したPSは+電極に引き寄せられ、各電極の下方に設置された容器に回収される。両容器の間には仕切りがあり、+に帯電したプラスチックが+電極の下方にある容器に、-に帯電したプラスチックが-電極の下方にある容器に入りにくくしている。なお、中間物は中央の容器に回収される。

通常の静電選別装置のイメージ 通常の静電選別装置のイメージ[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 静電選別の利点は、光学選別では選別が難しい黒色のプラスチックに対応できる点や、ABS、PS、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニール(PVC)などさまざまなプラスチックに使える点だ。

 しかし、静電選別装置のオペレーションには高度な知識が必要で普及が進んでいない。また、リサイクル施設に搬入される使用済みの家電機器や自動車、容器包装は製品によってプラスチックの混合比や使用されている樹脂の種類が異なる。プラスチックの混合比や種類が違うと、静電選別装置の高圧電界におけるプラスチックの帯電状態が変わり、+電極と-電極への引き寄せられ方が変化し、中間物用の容器に入ったり、特定のプラスチックを指定の容器で回収できなかったりと、選別の精度が低下する。

 そのため、プラスチックの混合比や樹脂の種類に合わせてオペレーターが静電選別装置の仕切り位置や+/-電極の電圧を調整する必要がある他、オペレーションのノウハウがないと、選別が安定せず、リサイクルプラスチックの品質を保てない。

 そこで、三菱電機の先端技術総合研究は同社のオペレーションノウハウを集約することで、ノウハウ無しで扱える静電選別装置としてスマート静電選別の検証機を開発した。

スマート静電選別の検証機 スマート静電選別の検証機[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 スマート静電選別の検証機は、乾燥部、摩擦帯電部、選別部、操作部、分別回収機など、一般的な静電選別装置が備えている部品を搭載している他、「選別前/選別後組成識別センサー」「比電荷分布評価システム」「AI制御部」「自動駆動仕切り」といった新機能を有している。

スマート静電選別の検証機の構成 スマート静電選別の検証機の構成[クリックで拡大] 出所:三菱電機
「比電荷分布評価システム」 「比電荷分布評価システム」[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 選別前/選別後組成識別センサーは、検証機に搭載されたハイパースペクトルカメラ(近赤外光)の撮影画像を解析し、選別前後のプラスチックの組成を見える化する。帯電量センサーや樹脂識別センサー、重量センサーで構成される比電荷分布評価システムは、摩擦帯電後のプラスチックの帯電量、重さ、プラスチックの種類を測定し、種類ごとの比電荷分布をセンシング。これらのセンサーで取得したデータを基に、AI制御部は、混合プラスチック片の組成の変動に応じた最適な電極の電圧や仕切り位置を導き出す。AI制御部が導出した位置データに基づき自動駆動仕切りは2枚の板が回転駆動することで仕切り位置を制御する。これらにより、オペレーションのノウハウがなくてもプラスチックの混合比や種類に合わせて静電選別が行える。

スマート静電選別の流れ スマート静電選別の流れ[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 当日は三菱電機 先端技術総合研究のラボスペースで、スマート静電選別検証機のデモンストレーションが披露された。デモンストレーションは「静電選別によるABSとPPのフレークの選別」や「各センサーとAI制御部による自動駆動仕切りのコントロール」を行った。

 「静電選別によるABSとPPのフレークの選別」では、デモンストレーション向けに作成された色付きのプラスチックフレーク(白色のABSと青色のPPの混合破片)が静電選別でABSとPPに高精度に指定の容器に振り分けされた。

静電選別によるABSとPPのフレークの選別 静電選別によるABSとPPのフレークの選別[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 「各センサーとAI制御部による自動駆動仕切りのコントロール」では、選別前/選別後組成識別センサー、比電荷分布評価システムでセンシングしたデータを基にAI制御部が導出した情報をベースに自動駆動仕切りが動く様子が披露された。

各センサーとAI制御部による自動駆動仕切りのコントロール 各センサーとAI制御部による自動駆動仕切りのコントロール[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 三菱電機 先端技術総合研究所の説明員は「スマート静電選別の検証機では、1時間当たり5キロ(kg)のプラスチック選別が行える。三菱電機のグループ会社であるグリーンサイクルシステムズが保有する大型の静電選別装置は1時間当たり500キロのプラスチック選別が行えるが、オペレーションにはノウハウが必要だ。そのため、検証機での検証実験が完了後、グリーンサイクルシステムズが保有する大型の静電選別装置にもセンサーやAI制御部、自動駆動仕切りなどを搭載し、オペレーションのノウハウがなくても運用できるようにしていきたい」と語った。

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