IGS 執行役員 博士の鈴木章吾氏に、同社の概要や「ウォークスルー型セキュリティゲート」の開発経緯、特徴、実証の状況、今後の展開について聞いた。
近年、世界的にテロの脅威が増している。国内でも銃撃事件や刺殺事件が発生しており、テロ対策の必要性が高まっている。このような状況を踏まえて、Integral Geometry Science(IGS)は、混雑するような商業施設、交通機関、イベント会場でも人の流れを止めず、ウォークスルーでスムーズに危険物を検知できるセキュリティシステム「ウォークスルー型セキュリティゲート」を開発したと発表した。
IGS 執行役員 博士の鈴木章吾氏に、同社の概要やウォークスルー型セキュリティゲートの開発経緯、特徴、実証の状況、今後の展開について聞いた。
MONOist IGSの会社概要について聞かせてください。
鈴木氏 IGSは神戸大学 数理データサイエンスセンター教授の木村建次郎氏が電流経路可視化装置の開発/拡販を目的に2012年に立ち上げた会社だ。当社では、対象物に電気を流し発生させた磁場を計測した値から電流値を厳密に算出できる「導電率再構成理論」をベースに構築した数式を用いて電流経路可視化装置を完成させた。その後、この装置を改良し、不良品の電池を見つけられる蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置を開発した。なお、磁場の値を基に電流値を算出するために、当社は、当時解くことが不可能とされていた「電流磁場逆問題」を、電池の領域で世界で初めて解決することに成功した。また、磁気発生源から離れた位置で得られた磁気分布から磁気発生源近傍の磁場分布を再構成し、磁気発生源を高分解能で観察することを可能にする「電磁場再構成理論」も考案している。
MONOist ウォークスルー型セキュリティゲートの開発経緯について聞かせてください。
鈴木氏 当社では、銃や刃物に使用されている素材に対して低い周波数の電磁波を放出することで返ってくる「電磁波の応答」を、導電率再構成理論と電磁場再構成理論をベースに構築した数式を用いて数値化できることを発見した。この技術をセキュリティシステムに応用できると考え、ウォークスルー型セキュリティゲートの開発をスタートした。
MONOist ウォークスルー型セキュリティゲートの特徴について聞かせてください。
鈴木氏 現在、国内外で使われているセキュリティゲートはX線検査装置やミリ波(電波)検査装置、金属探知機の3種類だ。X線検査装置は、静止したモノや人の2次元画像を取得でき、危険物の形状や、金属製の銃だけでなくセラミック製の銃の有無などを検知可能だ。しかし、被ばく線量は100mSv以下と小さいが被ばくする問題がある。
ミリ波検査装置は電波を照射しその反射信号の大きさにより危険物の有無を検出する。一般的にバッグの中や、脇の下に潜ませた危険物の検知が難しいという課題がある。
金属探知機は、ウォークスルーで検査でき、金属物が通過したときにおける磁界の変化の大きさで危険物の有無を検出している。金属物の全般を検知するため、利用する前に腕時計や指輪など金属物を外す必要がある。
IGSのウォークスルー型セキュリティゲートは、ウォークスルーで検知可能で、バッグの中や、脇の下に潜ませた危険物も可視化する。加えて、検出対象である危険物のみを検知できる。体内に隠された危険物の検知にも対応し、被ばくの危険性もない。1秒で200人の危険物の有無を検知できる。
今回の製品はゲート型と地面や壁面の内部に設置できる埋め込み型の2種類がある。ゲート型は要望があれば販売できる段階にあり、埋め込み型は2025年度内の発売を目指して開発を進めている。なお、いずれのタイプも対象の施設や場所に合わせて現地で作製し、提供することを想定している。
MONOist 実証はどのように進んでいるのでしょうか。
鈴木氏 直近の取り組みとしては、神戸市やBリーグ所属プロバスケチーム「神戸ストークス」と連携し、神戸市立中央体育館で2024年12月7〜8日に開催されたBリーグ公式戦「神戸ストークス対アルティーリ千葉」で実証実験を実施した。
実証実験では2024年12月7〜8日にわたり会場に2台のゲート型のセキュリティゲートを設置して、約2000人の手荷物検査を行った。
同実験実施の背景には、One Bright KOBEが2025年4月1日にオープンする多目的アリーナ「ジーライオンアリーナ神戸」で手荷物検査の効率化が課題となっていたことがある。One Bright KOBEは神戸市とともにこの課題を解決する技術を募るプロジェクトを開き、そのプロジェクトで今回の実証実験が採択された。
MONOist 今後の展開について教えてください。
鈴木氏 当社では国内外問わず、ウォークスルー型セキュリティゲートの販売を予定している。国内では鉄道会社から引き合いがあり、海外ではテーマパークの運営会社からの問い合わせが増えている。既に導入が決定している大型施設もある。引き続き社会実装を進めていきたい。
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