――お香やアロマウオーターで炎と香りを同時に楽しめる仕様は、社員の声から生まれたそうですね。
本山氏 今回の開発では、若い世代にも受け入れられる商品を目指しました。実際に試作品を若手社員に見せ、「3万9800円で香りを楽しめる機能をつけたらどうか」と話したところ、「絶対に買います」と好反応を得ました。そこで、香りも同時に楽しめる機能を加えることにしました。
また社内だけではなく、早い段階から展示会にも出展し、お客さまの意見を直接聞くことで製品をブラッシュアップしました。最初はこの製品を「炎を見る観賞用のインテリア製品」と説明していたのですが、「これは暖炉なんです」と伝えた瞬間にお客さまの反応が変わり、「ああ、なるほど」とすぐに理解していただける。そういうやりとりの中で、MYDANROという名前も生まれました。これまで開発中の商品を外に出すこともあまりなかったので、この点でも新しい取り組みだったと思います。
新商品の開発時には「本当にこの商品にニーズはあるのか?」という不安が常につきまといます。自分を信じて突き進むものの、社内プレゼンなどの際に「これ売れるの?」というつらい言葉をもらうこともあります。私も幾重にもわたる商品化への承認プロセスで「暖炉に憧れる人なんているの?」と問われたりもしました。内心では「いや、そういう人は確実にいるんです」と思いながらも、やっぱり不安になるんですよね。
でも、実際に外部の展示会に出してみると、「こういう商品あったらいいよね」という声がどんどん集まってくるんです。グランピング施設や介護施設、ホテル/レストランの演出など、想定以上に幅広いニーズがあることが分かり、それが社内の説得材料にもなりました。ターゲット設定はしていましたが、外に出して初めてリアルなニーズを感じることができました。
――過去にもMakuakeでプロジェクトを行っていますが、活用する理由をお聞かせください。
本山氏 新商品開発の責任者になったときから、「出口戦略のない商品はやらない」と決めていました。ホームセンターやスーパーで大量に売れる商品とは異なるため、「この商品に適した販売ルートは何か?」を考えながら開発を進めました。そんな中、部下の提案でテスト販売を目的にクラウドファンディングを活用することにしました。
Makuakeは新しいもの好きなユーザーが多く、商品のストーリーを伝えやすい場です。結果的に、テスト販売として非常に良い選択だったと感じています。MYDANROも、当初は「300台売れれば十分」と思っていましたが、蓋を開けてみれば販売開始から約3時間で目標金額を達成。部下たちも非常に喜び、社内の空気も「これは売れるんだ」と風向きが変わる。その意味でも、非常に良い影響を受けています。
――今後の展望について教えてください。
本山氏 MYDANROについては、カラーバリエーションを増やすなど、新たな展開を考えています。新商品開発部門として、自分が開発に携わる以上、自分が本当に欲しいと思えるものを作る強い意志が必要だと考えています。そのため、部員にも「今、本当に自分が欲しいものは何か?」を挙げてもらい、それをアイデアの原点としています。現在、具体的な新商品の1つとして、カセットコンロの上に設置し、回転させながらコーヒー豆を焙煎する手回し式ロースターのMakuake実施も近々で構想しています。
近年は電化が進んでいますが、カセットガスだからこそ実現できる価値もあります。場所を問わず出来立ての料理を楽しめる利便性に加え、災害時には暖をとる手段にも明かりにもなり、暖かい飲み物を作ることもできます。こうしたカセットガスの「小さなエネルギー」が、多くの人の役に立つ場面は少なくありません。この価値を国内だけでなく海外にも広め、より多くの人にカセットガスの魅力を知ってもらいたいと考えています。
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長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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