ゆらめく“非常識”な赤い炎 岩谷産業のカセットガス技術が光るインテリア暖炉新製品開発に挑むモノづくり企業たち(9)(2/3 ページ)

» 2025年02月25日 07時00分 公開
[長島清香MONOist]

業界のタブーに真っ向勝負、炎の美しいゆらぎと安全性を両立

――MYDANROの開発に3年を要したとのことですが、その過程で苦労した点を教えてください。

本山氏 MYDANROの開発においては、技術的な問題を含めさまざまな課題を解決する必要がありました。まず技術的には、「炎の色と揺らぎの再現」と「安全性の確保」が大きなハードルでした。

 前者については、炎の色を赤くすることから始めました。カセットコンロの炎は青ですが、赤い炎は不完全燃焼によって発生するため、ガス業界では避けるべきものとされています。しかし、炎らしさを表現するには、ある程度の不完全燃焼が必要でした。

 不完全燃焼を意図的に起こすというのは、業界の常識からすれば非常識な試みですが、やってみなければ分からないこともあるだろうと、試作品を作ってみました。その結果、炎に物が直接触れない構造にすることで、すすの発生を抑え、一酸化炭素の濃度もカセットコンロと大きく変わらないことが確認できました。

 次に課題となったのが、炎のゆらぎの再現です。カセットコンロは勢いよく炎が出るため、独特のゆらぎを表現することができません。そこで、ガスの流速を通常の4分の1以下に抑えた新しいバーナーを開発しました。また、ガスの流れを制御するため、ガスが通るメッシュを二重にして網目を細かくすることで流速を低減させました。さらに、バーナーの周囲に約5mmの空間を設け、四方をガラスで覆うことで上昇気流を発生させ、より自然な炎のゆらぎを再現することに成功しました。

自然な炎のゆらぎを再現した 自然な炎のゆらぎを再現した[クリックして拡大] 出所:岩谷産業

 安全性に関しては、火傷の危険性やすすが発生する可能性を排除するべく、炎に直接触れないショーケースの構造にしました。また、天面の温度も可能な限り低くなるよう試行錯誤し、熱さを感じた際にぱっと手を離せる約120℃以下に抑えています。狭い空間で使用した場合でも、一酸化炭素の濃度が一定量を超えると火が消える設定になっているので、一酸化炭素中毒の危険を回避しています。

 これらに加えて、社内外の理解を得る点も苦労しました。MYDANROは「ガスをあえて不完全燃焼させる」という、これまで当社では誰もやったことのないアイデアに挑戦しています。アイデアを最初に提案した際には、協力工場から「岩谷産業がこのような製品を作るべきではない」とご意見をいただいたこともあります。しかし、安全な設計であることと商品の提供価値を社内外にしっかり説明したことで、商品化への道が開けました。一見すると非常識と思えるようなことも形にしながら前に進めていくことで、商品化への道筋が見えてくることを実感しました。

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