工場の高温排ガスからkW級の熱電発電、ヤンマーがメンテフリーのシステムを開発脱炭素

ヤンマーホールディングスは、「ENEX2025」において、工場などで排出される高温ガスの熱エネルギーに独自の熱電変換技術を適用してCO2フリーで発電する熱電発電システムを展示した。

» 2025年02月14日 06時15分 公開
[朴尚洙MONOist]

 ヤンマーホールディングスは、「ENEX2025(第49回地球環境とエネルギーの調和展)」において、工場などで排出される高温ガスの熱エネルギーに独自の熱電変換技術を適用してCO2フリーで発電する熱電発電システムを展示した。既に技術開発に一定のめどを付けており、グループ傘下のヤンマーeスターによる商用展開を進める方針だ。

 展示したのは熱電発電ユニット1台分で、350~800℃の高温ガスの配管に組み込む蒸発部と、熱媒体の水が蒸発部で気化した水蒸気を冷却して再び水に液化する凝縮部から構成される。蒸発部は、高温ガスの熱エネルギーにより水から水蒸気に気化して熱交換する熱交換器となっている。凝縮部には、蒸発部から水蒸気によって輸送される熱と冷却水の温度差により発電する熱電変換素子が組み込まれている。

ヤンマーホールディングスが展示した熱電発電ユニットの展示 ヤンマーホールディングスが展示した熱電発電ユニットの展示。左側が蒸発部で、右側が凝縮部[クリックで拡大]

 新たに開発した熱電発電システムでは、熱媒体の一部分が加熱され沸騰し、別の一部分が冷却され凝縮することによって自然に循環するサーモサイフォン現象を利用して、廃熱からの熱エネルギーを熱電モジュールに輸送している。「このため、熱媒体である水を送出するポンプやモーターなどの可動部が原理的に不要だ。可動部が存在しないので、振動や騒音も発生せず、それらの定期メンテナンスを行う必要もない」(ヤンマーホールディングスの説明員)。

熱電発電システムの仕組み 熱電発電システムの仕組み。サーモサイフォン現象により廃熱からの熱エネルギーを熱電モジュールに輸送している[クリックで拡大] 出所:ヤンマーホールディングス

 また、熱電変換素子は、凝縮部のヒーターに接するように設置されている。2つのヒーターをそれぞれ挟み込むように総計8枚の熱電変換モジュールを用いており、1枚当たり4×6=24個の素子を組み込んでいるので、熱電変換ユニット1台につき192個もの熱電変換素子を使用していることになる。これら多数の熱電変換素子に対して、ヒーターからの熱を均一に伝えるとともに、熱応力による素子破壊などが起こらないように最適な設計を図るのも重要な取り組みになったという。

 熱電発電システムの基本構成としては、4台の熱電変換ユニットと、熱電変換素子で発電した直流電力を交流に変換するパワーコンディショナー、制御盤、装置保護のためのリリーフユニットから構成される。熱媒体は水を使用しており、毎分224リットルの流量が運転条件となっている。熱電変換ユニット4台分で最大発電出力は9.5kWに達し、1年当たり30トンのCO2排出量削減の効果がある。「廃熱からkW級の発電ができるシステムはあまりない。さらに省スペースで設置でき、メンテンナンスフリーでもある」(同説明員)。

熱電発電システムの設置イメージ 熱電発電システムの設置イメージ。熱電変換ユニットは4台使用しており、最大発電出力は9.5kWに達する[クリックで拡大] 出所:ヤンマーホールディングス

 熱媒体は水を使用して発電コストも試算しており、利用年数10年で1kWh当たり27円、同15年の場合で19円となる。これらは政府からの補助金なしの場合で、大企業向けの3分の1補助や、中小企業向けの2分の1補助があればより低コストで運用できる。

 さらに、今回展示した熱電発電システムは、1.5~3日と短期間で設置工事を完了できることもメリットになる。「工場の休暇の期間などを使って導入できるので、操業を停止する必要がない」(同説明員)。

 ヤンマーグループは、高温廃熱で発電する今回の熱電発電システムに加え、ヤンマーエネルギーシステムが低温排熱である100℃以下の温水で発電する廃熱発電システムの開発も進めており、工場の廃熱再利用に幅広く対応する体制を整えている。

ヤンマーグループの向上における廃熱再利用の体制 ヤンマーグループの向上における廃熱再利用の体制。パナソニックグループとの提携で、排蒸気への対応も可能になっている[クリックで拡大] 出所:ヤンマーホールディングス

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