サプライチェーン管理担当者のニーズとして「属人作業の排除(標準化の推進や自動化)」や「リアルタイムでの情報把握(実行系の末端までの可視化)」は以前からずっとあったものだ。しかし、従来はサプライチェーンを支えるSCMシステムの技術的な面で負荷が高すぎて難しいという背景があった。
サプライチェーンプラットフォームを展開するBlue Yonder(ブルーヨンダー)のEVP兼Chief Strategy OfficerのWayne Usie(ウェイン・ユーシー)氏は過去のSCMシステムについて「従来のSCMシステムは、サプライチェーンを真の意味で一貫した形で管理できるわけではなかった。個別のシステムがバラバラに動いており、データもそれぞれが抱えている状況がほとんどで、サイロ化が進んでいた。特に計画系と実行系は組織も分断されており、データの一元的な活用はできなかった」と振り返る。
しかし、これらの技術的な問題がクリアされつつある。クラウド関連技術やデータ統合技術の進展により、クラウド上でサプライチェーンのさまざまなシステムで生まれるデータを容易に統合できる仕組みを構築できるようになってきた。従来分断されていた計画系と実行系のデータのすり合わせを容易に行えるようになった他、現場のIoT(モノのインターネット)データも統合できるため、発生した現場の問題などもリアルタイムで可視化できるようになってきている。容易に一元化されたサプライチェーン管理が実現できるようになってきているのだ。
例えば、2024年問題で注目を集めた物流の人手不足や働き方問題だが、製造側がジャストインタイム(JIT)生産システムを徹底することで、工場外での納入待ちなど、物流(トラック運転手)にしわ寄せが発生している面があった。しかし、これらの配送トラックのリアルタイム情報(フリートマネジメントシステム)と製造計画や進捗状況(さらに交通情報なども)を組み合わせて管理することで、これらの無駄を削減できる可能性も生まれてきている。
また、グローバルで展開する製造業では、地域によってSCMシステムが異なり、一元的な情報把握が難しく、ある地域では余っている部品が、ある地域では足りないというようなことも起こりがちだった。一元化したSCMプラットフォームで、各地のSCMシステムの情報を統合することで、これらの無駄も削減できる。パンデミックなどグローバルでの大きな問題が起きた際の影響把握に取られる時間を大きく削減できることになる。SCMシステムでカバーできる範囲がより広がり、詳細に管理ができるようになってきているのだ。
統合されたSCMデータ基盤により、サプライチェーン全体をカバーする一元的なデータの保存元はできるが、そこで価値を生むためには正しくデータを収納し、必要なデータを引き出せるようにする必要がある。この課題を解決するために注目されているのが生成AIとAIエージェントだ。
SCMは、さまざまなシステムで得られたデータがワンソースで活用できる形で記録されることが望ましい。しかし、サプライチェーンに関係する組織は多岐にわたり、それぞれの部門の基準でデータが記録される。また、ノウハウなどは文書で記録され、構造化データとして活用が難しい状況もあった。これらを生成AIを活用することで、自動で最適な形に書き換え、利用可能な形で保存できるようになる。
さらに、多岐にわたるデータの活用や、データから引き出される知見やアクションについても、AIエージェントの適用が進むことで、圧倒的に容易になると見られている。AIエージェントとは、生成AIを含む複数のAI技術やデータ分析技術、デバイスなどを組み合わせ人が介在することなくタスクを自律的に実行するシステムのことだ。例えば、正しいシステム構成や学習ができていれば、サプライチェーンで部品の滞留があった場合に「どこが問題で、どう対策が推奨されるか」というような自然言語での問いかけで、データから考えられる問題点や対応策などを示すことができ、従来熟練のSCM担当者でなければ、対応できなかった問題が新任者でもある程度まで対応できるようになる。まだAIエージェントをSCMシステムに適用し幅広く展開しているところは少ないが、2025年はAIエージェント元年とも呼ばれており、これらの技術を使うことでデータ周辺の負荷を大きく低減できるようになる。
これらの統合データ基盤とAI技術の進展が重なったことで、SCM担当者が抱えていた「属人化の問題」や「リアルタイムでの情報把握」がシステムとして真に解決できるようになったというわけだ。
コロナ禍を教訓としてSCM変革に取り組んできた企業も実際には数多く存在するが、喉元過ぎて熱さを忘れた企業にもこれらの技術が出そろってきた今こそ変革に乗り出す時だといえるだろう。
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